農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で読者が注目した『季刊地域』の記事を連載形式で公開します。
今回ご紹介する「みどり戦略」コーナーは、オーガニックビレッジ宣言をした129市町村(2024年8月30日)のうち、早くから動いていた自治体が、23年8月時点でどんな有機農業推進の取り組みを始めているのかを聞いたものです *この記事は『季刊地域』2023年秋号(No.55)に掲載されたものです。
学校給食+有機JAS認証で米の販路拡大
千葉県いすみ市
学校給食という販路を確保したうえで有機農業を展開してきたいすみ市。2017年秋には給食に使う米のすべてを地元産の有機栽培米(無農薬・無化学肥料で栽培した米)に転換した。有機栽培米の給食は話題となり、それを求めて移住した人もいるほどだ。
給食以外の需要も高まっている。市内で有機栽培された米は、ほとんどをJAが集荷し「いすみっこ」という銘柄で販売する。昨年の集荷量は玄米で100t。うち43tが有機JAS認証を得たもので、そのほとんどを大手生協へ卸す。
残りの57tは有機JASを取得していないが、栽培法は同じで農薬・化学肥料は使っていない。ここから給食用に35t使われるほか、パックご飯メーカーからの需要がある。ふるさと納税の返礼品や地元の直売所での販売も人気で、とくに都市部の子育て世代や健康志向の高齢者が買っていく。有機JASがなくてもお互いの信頼関係で納得してもらえる販路はあるが、有機JAS認証米のほうが販路開拓がスムーズなので、市では取得を推進しようと考えている。
いすみっこの生産者価格は、玄米60kgあたり、有機JAS認証ありが2万3000円、認証なしが2万円。
自園調理の保育園に有機の野菜を販売
新潟県佐渡市
佐渡市では、有機栽培の野菜をつくる農家の販路の一つに保育園の給食がある。どの保育園も慣行の野菜と比べて少し高い単価で購入している。園ごとに調理師が対応してくれるので、野菜の大きさや曲がりなどに対して融通が利くそうだ。
保育園の近くに住む有機農家に市が声をかけて利用を増やしてきた。保育園と農家の直接の取り引きで、野菜は農家が運ぶ。昨年から距離が遠い保育園に、直売所に野菜を集めて宅配便で送る方式も始まった。
道の駅が拠点、サシバとともに有機農業へ
栃木県市貝町
市貝町は、サシバという小型のタカの仲間が営巣する世界有数の地。春から夏、渡り鳥としてやってきて、「谷津田」でエサになる昆虫や爬虫類を捕まえ、子育てをする。町ではオーガニックビレッジ宣言をする前から「サシバの里づくり基本構想」を策定し、減農薬・減化学肥料栽培や有機農業を推奨してきた。
道の駅「サシバの里いちかい」では、農薬・化学肥料を半分以下に減らした特別栽培米が販売されるようになって5年目。町では「サシバのふるさと認証」という特別栽培農産物の認証制度を独自に設けている。
道の駅には、農薬・化学肥料を使わずに栽培した野菜が並ぶコーナーも昨年できた。有機JASを取得している農家を含めて5人がここに野菜を並べている。他の野菜の1.5倍ほどの価格だが、道の駅ということもあり、町外から来るお客さんがよく手にとってくれるとのこと。
有機JASを取得していない農家もいるため、コーナーとしては「有機野菜」とうたっていない。認証を取得している農家が設置するポップが有機栽培の印のようになっているそうだ。
キューブ状真空パック米を道の駅で販売
千葉県木更津市
「きさらづ学校給食米」は無農薬で化学肥料を使わない米。給食以外に、キューブ状の真空パックにして道の駅での販売も始めるそうだ。市内外のお客さんに土産用として利用してほしいとのこと。現在、真空パック用機械の導入を準備中(みどりの食料システム戦略推進交付金を利用)。また昨年は、粒が小さくて学校給食米にならなかった米でみりんをつくった。
「やさいバス」で売る、運ぶ
兵庫県丹波市
有機農業産地づくり推進事業を利用して、青果の共同配送システムの実証実験を11月にスタートする。利用するのは、静岡県の企業やさいバス(株)のサービスだ。販売するのは有機栽培や特別栽培(農薬・化学肥料半減)の農産物を予定しており、専用サイトで注文を受けた農家が最寄りの集荷場所に出荷すると、巡回車両が買い手のところへ運んでくれるというものだ。配送料は購入者が負担する。
主な買い手は神戸や大阪の百貨店・小売店・飲食店で、販売を見込める品目や生産量を丹波市有機の里づくり推進協議会(市・JA・生産者で組織)で調整したうえで、やさいバス(株)が具体的な販路を開拓する。
余った野菜の冷凍加工、ブロッコリーの露地栽培で販路を拡大
島根県浜田市
有機野菜の産地づくりを目指す浜田市は、2022年に楽天農業株式会社、島根県、JAしまね、石見地方9市町村の連携協定を結び、販路拡大を進めている。楽天農業は有機野菜の生産、加工、販売を行なう企業で、自らも市内の農地を借り受け、野菜づくりを始めている。
この連携協定を活かしてまず市が進めたのは余剰野菜の販売。以前から市内の農家グループが、ハウスで葉物野菜を有機栽培していたが、葉物は春先に収量が増えるため、販売先との契約以上の余剰分が出て廃棄していた。これを冷凍加工事業を展開する楽天農業に売るという話が成立した。
また、露地野菜の有機栽培実証も楽天農業と進めている。ブロッコリーやサトイモは有機栽培でも問題なくつくることができ、冷凍カット加工での需要が見込まれている。加工も地元でできないか、市近隣の業者との検討も進んでいる。
有機JAS認証はどうする? 自治体アンケートより
アンケートの返信を寄せてくれた32市町村のうち、有機JAS認証の取得を進めると答えたのは20市町村。販路を広げるには、信頼性の高い第三者による認証を取得したほうがいいという判断のようだ。認証費用を補助する制度を設けている市町村も少なくない。たとえば熊本県山都町は、町独自の「山都町有機農業振興事業」により新規の認証取得は費用の全額を、継続については8割を補助する。
登録認証機関の検査を受けて有機JASを取得するには年間10万円を上回る費用がかかることが多い。そこで市の独自ブランドや認証制度を立ち上げ、特別栽培基準(農薬・化学肥料半減)の農産物も含めて付加価値を得られる仕組みを実施したり計画中という市町村もあった。2023年春53号p90の大分県臼杵市はその先進事例で、12年前に「ほんまもん農産物認証制度」を始めている。
一方で、地元の消費者に対しては「顔が見える関係が築けていれば、認証取得までは必要ないのでは」という記述もあった。
『季刊地域』2023年秋号(No.55) 「有機で元気になる!どこから手をつける?販路を探す広げる」より