『季刊地域』No.61春号の記事「超小集電を見た! 土や水、自然物から電気を生み出す技術」に収まり切れなかった内容をお届けします。
文・写真=編集部
電源なしでも電気は流れる
海に浸かる橋脚が錆びるのを防ぐのに、微弱な電流を流すという技術があるそうだ。といっても電源は必要ない。橋脚の鉄にマグネシウム合金の金属棒をつないで海水に浸ける。すると錆びるのが速いマグネシウムから鉄に電子が流れ(電流は逆向きに流れる)、鉄が錆びるのを防ぐというのだ。
だが、その効用は錆び防止だけではなかった。鉄に流れる電流に海水中のカルシウムが反応して炭酸カルシウムになり、サンゴが成長しやすくなることに目を付けた人がいる。沖縄の石垣島では、実際にサンゴを復活させる実験が始まっているそうだ(2025年4月10日の東京新聞夕刊)。
「超小集電」で電気が得られるのは、この技術と同じ理屈らしい。
ミミズ糞団子でLEDが点灯
超小集電は、中川聰さん(トライポッド・デザイン株式会社代表)の造語で、あらゆる自然物を媒体に、微小な電気を収集する技術のこと。

開発・普及が本業。名古屋大学大学院の客員教授も務める
誌面では、ワークショップで作製したLED竹灯籠の仕組みを取り上げたが、もう一つ、もっとシンプルな実験を紹介しよう。緑色のLEDを灯す団子3兄弟だ。
直径3~4cmに丸めた団子の材料は、ミミズコンポストにたまったミミズ糞。これに電極を2本ずつ立てる。1本は普通の鉄のボルト。もう1本はマグネシウム合金でできている。
中学校の理科で習うイオン化傾向を覚えているだろうか。マグネシウムは鉄よりイオン化傾向が大。そのため、団子に挿した2本の電極は、マグネシウム側がイオン化し電子が発生するのでマイナス極に、鉄ボルトのほうがプラス極になる。
いわば団子1個ずつが電池。団子電池3個を直列につなぐと3V程度の電圧になり、写真のようにLEDが緑色に点灯する。なんともかわいい電気団子3兄弟だ。

土に還りたい力を活かす
酸素と水のある地球上では、いろいろなものが酸化する。人間が鉱石を製錬して作り出した金属棒の酸化とは錆びること。このとき電子が発生する。一方、有機物は、ミミズや微生物の働きにより分解され土に還る。中川さんは「金属も有機物も土に還りたがっている。その還りたい力を活かすのが超小集電」だという。

水に浸けた2本の電極はどちらも炭素棒だがLEDが光った。
ただし電圧が小さいので、この場合は昇圧装置(四角の板部分)で電圧を上げ、
点滅させている(ちょうど光った瞬間)
近代の工業社会は大きく、強く、広く、高く……という方向の発展を目指してきたが、何でも使いっぱなしの工業社会はごみを生み出すばかり。だが、ごみは未利用資源だ。それが地球に還るときに生まれる小さいエネルギーに、人類はこれまであまり目を向けてこなかった。微小な電気はLEDを光らせることができるし、センサーも稼働する。貯めて使えばもっといろいろなことができる。山の中や辺境の地、災害時など、電力会社の電気が届かない場面で役に立つ。
その前にまず、中川さんが農業とセットで普及させたいと思っているのがミミズコンポストだ。生ごみや有機物残渣を原料に、コンポスト容器内には糞とともに液肥(ワームティーと呼ばれる)がたまる。先ほどの団子電池の原理で取り出した電気は、たとえばLEDによる電照などに利用できるだろう。
ミミズ糞は、細粒化した土が団粒化していて保水性がよい。これを圧縮した土の中では、金属棒の電極がゆっくり均一に錆び、電気が長く発生するという。また、電極のマグネシウムは、ミミズ糞の土に水酸化マグネシウムとして溶け出し、これも肥料になる。