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最新号より試し読み季刊地域No.61 (2025春号)

茨城

超小集電を見た!土や水、自然物から電気を生み出す技術

茨城県常陸太田市にあるトライポッド・デザイン株式会社は、「超小集電」による発電方法の研究をしています。金属電極を土や植物に挿すだけで微弱な電気を集め、LED点灯やスマホ充電が可能です。CO2を増やさず、災害時や無電化地域での活用も期待されます。今後はコンポストを活用した発電も研究予定!

茨城県常陸太田市・トライポッド・デザイン(株)、文・写真=編集部

地面から電気が湧いてくる!?

 なんだか、キツネにつままれたような話ではある。地面に挿した金属棒。それにLEDライトをつなぐ。すると、ふらふら揺れるように明滅する淡い緑色の光。あれ? 電気って地面から湧いてくるものだっけ――。

 ここは、中川聰さん(71歳)が代表を務めるトライポッド・デザイン株式会社(本社・東京)の実験施設。生まれ故郷の茨城県常陸太田市の山間で、「超小集電」の研究成果を月に1回一般公開している。

超小集電による電気で実験施設「空庵」のLEDライトが点灯。ガラス張りなのは高温下と低温下の集電能力を確かめるため。施設内は、夏は55°C、冬は内陸部なのでマイナス15°Cまで下がる

 超小集電とは中川さんの造語で、「あらゆる自然物を媒体として、集電材(電極)を介して、微小な電気を収集する技術」のこと。その原理は教科書に出てくる「ボルタ電池」と同じという。

施設の一般公開の参加者に、超小集電について説明する中川聰さん

 ボルタ電池では硫酸水溶液に亜鉛と銅の電極を入れる。すると、イオン化傾向が大きい亜鉛が酸化されて亜鉛イオンになり、電子を放出する。その電子が流れた銅の電極では還元反応が起こり、水素を生成。こうして二つの電極の間を電子が移動し、電気が流れるというものだ。

 超小集電も金属棒を電極に使う。だが、その棒を挿すのは硫酸水溶液のような危ない液体である必要はない。「植物の茎が1本あれば電気を引っ張り出せる」そうで、あらゆる自然物、土からも電気が取り出せる。

 ガラス張りの建物「KU—AN/空庵」がそれを実証してみせた施設だ。室内側のガラス窓の下には、木製容器に土を入れた電池(集電セル)がビッシリ。なんと1500個もある。電池一つ一つが出す電気は微弱でも全体で2Wの電力を生み出す。それを蓄電しながら室内のLED800個の灯りなどに使う。

生命が宿りそうなところならどこでも

 中川さんは中学校の美術教師を経て、1987年に現在の会社を起こした。国内外の企業の製品企画や公共空間のユニバーサルデザインの開発と普及に携わり、人間の感覚をセンサー技術で拡張する研究などで、東京大学大学院の機械工学特任教授や名古屋大学大学院医学系研究科の客員教授を歴任している。

 電気の専門家だったわけではないが、2016年、電気のないところでセンサー技術を使うため、「微生物燃料電池」の研究を始めたそうだ。これは名前のとおり微生物を利用して発電する装置のこと。有機物を分解して発生する電子を細胞外に捨てることでエネルギー代謝を行なう「発電菌」を利用する。だが、そんな特別な微生物がいなくても、じつは電気というのは身近なところで起きているのではないか、と中川さんは気づく。

 微生物も関わってはいるのだろうが、要はボルタ電池の金属電極で起きるのと同じ「イオン反応」だという。金属が電子を放出して酸化、つまり錆びることが引き金になっている。必要なのは電極になる金属のほか、有機物や酸素や水。生命が宿りそうなところなら確実に「集電」できるというのだ。

亜鉛の電極が希硫酸に溶けて亜鉛イオンになることで電子が発生。銅の電極へ移動し、水素イオンとくっついて水素に。この反応が継続することで電気が流れる

トマト電池、紙粘土電池、竹炭電池

 この日、30人ほどの見学者が訪れた一般公開では、竹を使った超小集電のワークショップがメインイベント。その前に中川さんは、フランスパンやトマトに電極を挿してLEDを光らせた。あるいは、10cm四方程度の金属板2枚に紙粘土を挟んだだけでも! これを小さくすればそのまま電池になりそうだ。

トマトにマグネシウム合金とステンレスの電極を挿すと、LED(昇圧装置付き)に淡い光が灯った

 ただし、これには仕掛けもある。LEDにDC—DCコンバーターという昇圧装置がついている。フランスパンやトマト、紙粘土で引き出した微弱な電気をこれで10倍の電圧に増幅してLEDを光らせている。

 だが、パンやトマト1個では昇圧装置の助けが必要でも、電池を直列につなぐように数を増やせば助けはいらなくなる。実際、ワークショップでつくった竹灯籠は、竹筒に土が混じった竹炭の粉を詰めた「電池」2個で、一般的な緑色LEDライトがきれいな光を灯した。

竹灯籠も点灯。これはふつうのLED。下部を土に埋めることで、内部の水分が長く保たれることを狙っている

「この5年間でだいぶコツがわかってきた」と中川さん。電極にはどんな金属を使うか、紙粘土やトマトにあたる媒体は何がいいか? また、媒体には水分が必要で、紙粘土が乾いてくると電気が出にくくなる。水だけでも電気は取り出せるが、海水のほうが多くの電気が出る。ただし電極の腐食が早い。

 それに、紙粘土のような固体では、粒子が細かくて金属板とピタッと貼り付いたほうが電気は強くなる。水分が保てれば、電極の金属が錆びてボロボロになるまで数カ月は集電が続く。ダラダラと長く電気が出ることも重要で、「飴を舐めるように」上手に金属を錆びさせる(イオン化して電子を取り出す)にはどうするか、を研究しているそうだ。

小さい電気を自立的につくる

 この5月には、整備中の新しい実験施設「LU—AN/琉庵」で100Wの集電が実現する予定だ。研究を始めた頃に比べると発生する電力は1000倍になった。100WあればLEDライトが点くしスマホの充電もできる。ノートPCも動かせる。

 だが、超小集電が目指すのは産業に使うような大きな電気を得ることではない。たとえば・・・

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