「みどりの食料システム戦略」が進む今、生きものと農業の関係性について考える。たとえばイネが育つ水田はカエルにとっても快適な場所だ。長年、有機イネづくりを続ける館野さんはいう。「カエルが元気な田んぼはイネもよく育つ!

執筆者:舘野廣幸(栃木県野木町・舘野かえる農場)
『季刊地域』2022年夏号(No.50)「カエルと一緒に育てる有機米」より
イラスト:舘野かえる農場オリジナル紙芝居「かえるのがっこう」より。妻、舘野富子さんが製作
米は農家がつくるものではない
私は農家の長男に生まれ、40年間農業をやってきました。40年のうち、現在に至る30年間は有機農業でイネを育てています。だから私は米づくり農家だと言いたいのですが、実際はそうではありません。米は私がつくっているのではないのです。
私は、というより人間は米をつくることはできないのです。米はイネがつくるのです。農家である私の仕事はイネが育ちやすい環境をつくること。イネが育つ世話をしているのです。
そしてイネも自分の力だけで育つのではありません。水田で生息する生物種は6000種類に及ぶと言われます。そうした生きものたちもまた水田によって生かされていると同時に、イネを育てる一役を担っていることも事実です。イネはこうした生きものたちの協同作業で育つことができるのです。

1954年生まれ。舘野かえる農場代表、NPO民間稲作研究所理事長。農業経営はイネ8ha、小麦1ha、ダイズ30a、キウイ15a。いずれも有機栽培。
カエルとイネのいい関係
イネが育つ水田という場所は、カエルたちにとっても快適な場所です。カエルは、両生類という水中生活と陸上生活の両方を行なう生きもので、水中の卵塊からかえったオタマジャクシは水中でエラ呼吸をして泳ぎ、やがて足が生えて変態すると肺呼吸となり陸上に上がります。イネは水田で育つので、水草のような水生植物と思っている人もいますが、イネは生育の前半の栄養生長期は水中で、穂が出てからは陸上で生育するのに適した植物です。つまりイネも水陸両生の生きものなのです。
イネとカエルは生育条件が一致し、イネが育つ環境はカエルの育つ環境にもなっています。カエルが元気な田んぼはイネもよく育つのです。

草取りもする
カエルの幼生であるオタマジャクシは雑食性です。ミジンコや小型の昆虫や魚の死骸などの動物性の食べ物だけでなく、藻や水草などの植物も食べます。水中を活発に泳ぎ回ることで、雑草の芽生えの抑制もしています。田んぼの中でオタマジャクシの多い場所は雑草の発生が少ないのです。
そして、食欲の旺盛なオタマジャクシが活発に泳ぐためには、有機物とそれを分解する微生物が豊富にいる水田であることが大切です。
害虫防除もおまかせ
雑食性のオタマジャクシからカエルになると食べ物は肉食性に変わります。カエルは眼の前で動くものを食べますが、田んぼでカエルたちが食べているのは昆虫類が多いようです。特にイネの出穂期にエサとなっているのはカメムシ類です。アカスジカスミカメやクモヘリカメムシなどの斑点米の原因となる害虫カメムシをカエルたちが防除しています。
仮に10aの水田に100匹のカエルがいれば、毎日数百匹の虫類がエサになっています。これらの虫類はすべてが害虫ではありませんが、非常に有効な害虫防除の働きをしています。つまり人間たちが害虫と称している虫たちも、カエルたちにとっては大事な食べ物。農薬で害虫防除をすることはカエルたちの食べ物を奪うことになり、やがてカエルたちもいなくなってしまいます。
カエルに守られ、カエルを守る

カエルたちの90%以上は田んぼで生まれるといいます。そのまま田んぼの周りに棲むダルマガエルは足に吸盤がなく、小さいけれど遠くの畑まで出張するニホンアマガエルは吸盤を持つカエルです。カエルたちを苦しめているのは農薬だけではありません。吸盤のないダルマガエルはコンクリートの側溝に落ちると垂直の壁を登れないし、隠れ場所のないアゼなども障害になっています。
カエルたちのお陰でイネが育つのですから、カエルたちに働いてもらうためには、カエルたちの棲みやすい環境をつくるのが私の仕事です。すなわち、カエルが隠れるためのアゼ草を生やし、草刈りをするときは少し高めに刈ります。草をなくそうと思って地際で刈るのではなく、古い草の代わりに新しい草を生やすつもりで刈ります。土地改良工事では、深いU字溝にカエルが脱出するためのスロープやカエルの渡り橋などを設置しました。


また田んぼの中では、イネ刈り後に少量の米ヌカを散布して1回のみの耕起にとどめ、スズメノテッポウやカラスノエンドウなどを生やします。春は耕起せず、こうした春雑草たちが、その後湛水して代かきすることで分解し、大量の微生物やミジンコ類を発生させます。有機栽培の水田ではこれらがオタマジャクシを育てるエサになります。
そして、オタマジャクシたちにとって逆境となる水田の「中干し」を中止、もしくは延期や軽度にするなど配慮します。有機稲作では成苗を疎植する(苗の間隔を広く植える)ため過剰分けつが少ないこと、6月植えのため中干し時期が7月中旬以降に遅れることなども、カエルの生育に合わせた農法になります。
初夏の田んぼでコンサート
春、田んぼに水が入り、地域の農家が一斉に代かきを行ないます。この田んぼの様子をじっと見つめている生きものがいます。ダルマガエルです。
代かきは水田の均平化と同時に、練り込んだ土に粘りを出して水の地下浸透や漏水を防ぎ、水田に水を蓄える作業です。代かき後の水田には2~3カ月間は水がたたえられることになり、カエルたちは一斉に鳴き始めます。鳴いているのは雄です。鳴き声に惹かれて雌がやって来るので、雄たちはできるだけ大きな声で上手に鳴こうと頑張ります。こうして初夏の田んぼでは毎夜カエルたちのコンサートが行なわれるのです。
ところが近年は農村の水田地域にも住宅が建ち、都会から移住する人が増えました。こうした住民から「カエルの鳴き声がうるさい」という苦情が役場にあったそうです。カエルの棲んでいる田舎に移住するからには、カエルたちのことも理解していただきたいと思います。
少しずつ世の中を変える
農水省の発表した「みどりの食料システム戦略」は、気候変動など地球環境の危機を背景に出されたものです。こうした環境悪化の被害を直接受けるのは農業者ですし、同時に田畑の生きものたちです。有機農業を推進する政策の中に、生きものたちの有機的な力を活かす農法への転換を位置づけるべきと思います。また、農業だけではなく「みどりの国創り戦略」として国民的課題と位置づけるべきと思います。
私の農場は「舘野かえる農場」と名づけています。それはもちろん、カエルがたくさん棲んでいるからでもあるのですが、平仮名で「かえる農場」としたことに、①カエルが働いている、②人や生きものが農村に帰る、③すべてが循環して元に還る、④少しずつ世の中を変える、⑤誰でもお米が買える、という意味を込めています。これからも、カエルたちと共ににぎやかで緑あふれる農場にしていきたいと思います。
次回は、「赤トンボの羽化を見ませんか」。お楽しみに。
Web連載(全4回) 「生きもの・動物と一緒に田んぼを守る」
- vol.1 令和の里山に馬耕がやって来た
- vol.2 カエルと一緒に育てる有機米
- vol.3 赤トンボの羽化を見ませんか
- vol.4 田んぼまわりの生きもの 保全のワザ
本記事は、『季刊地域』2022年夏号(No.50)特集「みどり戦略に提案 生きものと一緒に農業」の記事の一つです。他の記事は、ルーラル電子図書館でご覧ください。

