ホーム / 試し読み / 季刊地域Vol.59 (2024秋号) / ソーラーシェアリングは「農の風景」になるか
季刊地域Vol.59 (2024秋号)試し読み

千葉

ソーラーシェアリングは「農の風景」になるか

世の中でだいぶ知られるようになってきたソーラーシェアリング。営農型発電とも呼ばれ、農地に立てた金属製の架台の上に、一定の間隔で設置したソーラーパネルで発電する。
農作物と太陽光をシェアするこの発電設備は、風景としてはどう見えるだろうか。

東 光弘(市民エネルギーちば(株)/(株)TERRA 代表取締役)

合計6MWのソーラーシェアリング設備のある匝瑳市の豊和・開畑地区
合計6MWのソーラーシェアリング設備のある匝瑳市の豊和・開畑地区

パネルの下の野菜たちは元気だった

 ソーラーシェアリングに出会って12年が経ちました。それ以前は有機農産物の流通に20年以上従事していたので、初めてソーラーシェアリングを知ったときには「畑の上で太陽光発電をするなどけしからん!」という気持ちがまっさきに浮かんだのを今でもよく覚えています。

 それでも「いいも悪いも、一度は見てみないと」と思っていたところ、縁あって発案者の長島彬先生の実験圃場を訪ねたのが2012年の夏。全国の素晴らしい有機圃場を見てきた私は、少し陰気でいじけたイメージの野菜を想像していました。ところが長島先生の畑の野菜たちは、「僕たちは元気だよ」とでも言いたげなたおやかな雰囲気を持っていたのです。

 本能的に「これはきちんと検証してみる必要がある」と思い、それから週1回の割合で通い、農作業に参加させてもらうようになりました。1年ほど通い、自分でも数十種類の野菜を作付けてみて、長島さんの提唱する「細いパネルで遮光率が35%」であれば、どんな野菜も元気に育つことに確信が持てました。
 実験圃場で農作業をしていたある日のことです。自然界には畑のような広大な野原は基本的にはないと気づきました。ほとんどの野菜の原種はおそらく、木々の下の日陰がおもな住処だったのではないでしょうか。

ひがし・みつひろ
1965年東京都生まれ、千葉県育ち。市民エネルギーちば(株)および(株)TERRA代表取締役。20年ほど有機農産物・エコ雑貨の流通を仕事にした後、2011年より自然エネルギー普及活動へ。
ひがし・みつひろ 1965年東京都生まれ、千葉県育ち。市民エネルギーちば(株)および(株)TERRA代表取締役。20年ほど有機農産物・エコ雑貨の流通を仕事にした後、2011年より自然エネルギー普及活動へ。

訪れる人たちに好評な景観

 「これは広めるに値する技術だ」と確信した私は、10年前、千葉県内の環境NPOの仲間たちと一緒に、資本金90万円で「市民エネルギーちば」を起業しました。ただ、田園風景にソーラーシェアリングが広がりすぎることを最初の段階から心配してきました。自分のやっていることは正しい方向に向かっているのだろうか——。この10年間、常に問い続けてきたように思います。

 ここ匝瑳そうさ市では現在、20ha以上の有機農業と6MWのソーラーシェアリングを実践しています。おかげさまでソーラーシェアリングに関しては先端地域となり、年間3000人以上の方々に来場いただいています。

 訪れた方にいつも尋ねるのは、「景観・ビジュアル的にどうお感じになられますか?」ということです。とりわけビジネス以外の一般の方々や、環境に関心のあるアーティスト系の方には必ずお聞きしています。

 「思ったよりも隙間が多くて明るいんですね」という声が一番多いでしょうか。私たちの設備では幅が30〜40cmと狭い太陽光パネルを使って、遮光率35%以下で設置することを徹底しています。他には「近未来的でカッコいい」「自分が知っていたソーラーシェアリングとは全然趣きが違う」などポジティブな言葉をいただいています。視察に際して、生態系や地域社会へ配慮していることも説明しているので、みなさん、私たちにシンパシーを感じてくれているからかもしれません。景観面でネガティブな意見をいただいたことがないのが現状です。

人の営みが農村の風景を守る

 ソーラーシェアリングはむらおこしの道具でもあります。市民エネルギーちばでは、左の図のような、売電収入をもとにした農業振興や地域基金への拠出、協力・連携関係の仕組み(匝瑳システム)をつくってきました。

 この地域は毎年人口が2%以上減る、全国でもトップクラスの人口減少エリアです。私はこの10年、むらの草刈りにほぼ皆勤で参加してきました。高齢化が進み参加者がだんだん減っているにもかかわらず、新たに加わる人は本当に少ないことを肌で感じます。労力不足を補うために、地域基金への拠出を活用してリモコン式の草刈り機を購入しました。しかし一番の解決策は、新しい住人の呼び込みと新しい農業経営の確立です。

 経済が回らないと、持続可能な地域おこしも環境改善もできません。農村風景には人も必要です。人がいる風景を守るには雇用が不可欠。当初、スタッフは私も入れて1.5人でしたが、10年で20人を超える仲間たちと仕事ができるようになりました。

関係人口が増えた

援農にやって来たパタゴニア社のみなさん
援農にやって来たパタゴニア社のみなさん

 様々な仕掛けで「関係人口」も増やしています。不耕起栽培の畑には、環境を重視した経営で世界的に有名になったパタゴニア社の皆さんを中心に年200人以上が農作業の手伝いに来てくれます。

 パタゴニアさんとの連携は社債を引き受けてもらうことから始まりました。それで発電設備をつくり、ともに電気を届けるだけでなく、農を通じてコミュニケーションする関係になりました。収穫された大豆で味噌をつくり、それをパタゴニアの店舗で売っていただくなど協力関係が広がっています。

 また、学生向けの研修合宿、イベント、「ソーラービール」などの六次化商品の開発。私たちの地域では、これらすべてソーラーシェアリングがあるからこそ加速させることができています。

 今後は、地域貢献を重視しているJリーグとのコラボや、環境省が選定している「脱炭素先行地域」などともリンクしたむらおこしを全国で仕掛けていく予定です。

 近い将来、農機具も電動化が標準になるでしょう。これらの電源も自前で調達できれば気分がいいし経済的にも有利です。将来的には、電動軽トラによる蓄電や水素生産の社会実装などで需給調整ができるようになれば、「電線がない世界」も実現していくことでしょう。食とエネルギーの自立が農の風景の重要な要素だと思うのです。

普及目標は日本の農地の10%

風景になじむ黒い架台のソーラーシェアリング
風景になじむ黒い架台のソーラーシェアリング

 ここ数年、地球温暖化による影響で稲作では白未熟粒米の被害が拡大しています。高温化する気候に米づくりが「適応」する方法の一つとしてもソーラーシェアリングが期待されています。パネルの下では水温・地温が下がることで、水生生物の多様性が向上するとも言われています。

 とはいえ私は、すべての農地をソーラーシェアリングにしてしまうことがよいとは考えていません。私たちの計算では、全国の農地の18%にソーラーシェアリングを設置すると現在の電気はすべて賄える計算になります。実際には住宅や工場の屋根、風力や地力、波力など様々な自然エネルギーがあるので、農地の10%ほどに普及すればよいと考えています。

▼黒い架台で景観になじみやすく

 できるだけ景観になじむように……

特集:農の風景のために汗をかく」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • ・枝物栽培で稼ぎと景観づくり
  • ・樹木葬墓地と農村風景
  • ・棚田は「遊び場×農業」の場にピッタリ
この記事をシェア
農文協 編
「小さいエネルギー」とは、太陽光や水力、薪・炭など、身の回りの自然を使って、自分でつくる電気や熱、動力などのエネルギーのこと。太陽光はもちろん、水や木がふんだんにある農山村は、食料だけでなく、エネルギーも生み出す力と技がある。本書は、そんな農山村の暮らしに学ぶ小さいエネルギー自給の知恵や技が続々登場!太陽光でオフグリッドの暮らし、太陽熱で干し野菜・ドライフルーツを簡単につくる、手づくり水車で電力自給、薪&炭で豪快な野外クッキングなど、小さいエネルギーを自分でつくる暮らしは、自然の恵みを実感でき、きっと痛快なはず。
タイトルとURLをコピーしました