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トモシビソウ日記連載

福島

【トモシビソウ日記 第4回】いま、いちばん読んでもらいたい本

菅家洋子さんは、ご夫婦でカスミソウや様々な草花を栽培する農家。その家業の傍ら、出店本屋「燈日草」を開くようになって4年目になります。菅家さんが暮らす福島県西部の昭和村では、廃校を利用した交流・観光施設「喰丸小くいまるしょう」で村民がお店を開く事業を村が進めているとのこと。月に3~4日(週末)、菅家さんはここで小さい本屋を開くのです。本の仕入れ方などの詳細は『季刊地域』vol.58(2024年夏号)で紹介しています。この連載では燈日草の日々の様子を綴ってもらいます。本を通した素敵な出会いがあるそうです。

菅家洋子(福島県昭和村・花農家)

出店本屋がもたらす出会い 

9月には2度の3連休があり、燈日草はそのすべての日に「喰丸小」で出店をした。初日に店づくりを終えると、2日目、3日目の開店準備の楽なこと! どれだけ負担なんだと思われそうだけど、2日目以降は本当に気持ちが楽だ。作業そのものというより、時計を見ながら、来られるお客さまの様子を見ながら、「早くやらねば」と焦る気持ちに疲れてしまうのだと思う。

喰丸小スタッフの友人に聞かれた。「いつか自分のお店を持つんですか? ここだけではもったいないような」。月数回の「燈日草」と、そこに来てくださるお客さまを、いつも見てくれている人からこんな言葉もらえるなんて、とてもうれしかった。

考えたことはある。お店があれば、その都度本を移動する手間もなく、箱詰めや運搬を繰り返すことによる本の傷みを心配することもない。

だけど、交流・観光施設としての「喰丸小」の存在、この木造校舎のあたたかな雰囲気があって、みなさんが足を運んでくださるのだということを、よくわかっている。そして私は、「燈日草」を目指して来てくださる人と同じくらい、ここに本屋があるとも知らず来る人のことを待っている。そういう人が本と出会う瞬間を目にするとき、私は抱えきれないほどの感情に満たされる。他にない、ここだけのもの。

『みどりのゆび』

9月23日、自分の誕生日にも「燈日草」をひらいた。その日いちばん最後のお客さまは、初めて来店された二人連れの女性。本を前に、娘さんと思しき女性が声を上げた。手にされたのは、『愛蔵版 みどりのゆび』(モーリス・ドリュオン著)。子どものころ、女性はそのアニメが大好きで、何度も繰り返し観たのだという。私は『みどりのゆび』が日本で映像作品になっていたことに驚いた。

女性は「ねえ、お母さん、覚えてない?」と聞くけれど、記憶にない様子。途中やって来たお父さまに聞くも、やはりわからないという。ご本人だけが覚えている、心のなかにずっとあった、大切な物語。燈日草が、その再会の場所になれた。なんて、幸せなことだろう。

『みどりのゆび』は、私にとっても大切な一冊だ。いま「燈日草」にある本のなかで、読んでもらいたいと思ういちばんの本かもしれない。6月に開いた「ヒロシマ展」でも、この本の一部を朗読した。触れた先に花を咲かせることのできる、主人公のチト。父親が武器工場の経営者だと知り、戦争って何だろうという問いのなか、澄んだまなざしと心根でチトが思うこと、起こしていくこと。最後まで美しい物語。私は誰もが、心の中にちいさなチトを抱いていると思う。

私にとって大切な一冊『みどりのゆび』

私がこの指ですることは

この原稿を書く前に目にしたニュースは、飢餓状態の続くパレスチナのガザ北部で、野菜を植える活動していた農家の青年が、隣人に苗を届ける途中に殺害されたというものだった。どうやって穏やかな文章を書くことができるだろうと、しばらく気持ちを起こすことができなかった。

ガザの惨状に対する抗議活動や、絵描きの山口法子さんによるチャリティーーポスターなどを知らせるコーナーを設けた

私はこのあと、この文章を書いた同じ指で、停戦のために日本ができることに尽力してほしいと、政府に意見のメールを送る。そして畑に行き、先日の強い霜のなか生き残った草花たちを摘んでくる。
明日は期日前投票に行く。この手ですることを、いま改めて考えている。

秋分の日の連休に販売したブーケ。花の中身は、ヒペリカム、セダム、ワレモコウ「かぐや姫」、トウテイラン、アンレイズ、グリーンレディ

著者:菅家洋子(福島県昭和村・花農家)

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