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愛知

【担い手】「地域まるっと中間管理方式」とは

農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で読者が注目した『季刊地域』の記事を連載形式で公開します。
今回は農業の「担い手」について、新規就農、集落営農、半農半X、兼業、定年帰農、体験農園など、多様な人材を育成していくにはどう仕掛けていけばいいか、実践的な記事を選びました。
*この記事は『季刊地域』2019年春号(No.37)に掲載されたものです。

公益財団法人愛知県農業振興基金理事長・可知祐一郎

農地集積、担い手確保の前に地域づくり

 農地集積・集約化と担い手の確保育成に取り組みながら、3年ほど前から、筆者は大きな不安を感じていました。それは、「地域づくりの視点が弱い」「このままでは守るべき農地を守れない」ということです。自分たちが生活している地域、将来とも、子供たちや孫たちが暮らしていく地域、そこに、もっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。

 担い手が不在、または不足している地域では、「集落全員で農地を守る」ことが重要だと思います。いわゆる「集落営農」です。地域に若者がいなければ、UターンやIターンにより呼び込まなければなりません。そのために必要なことは何か。筆者は、一にも二にも「魅力ある地域づくり」であると考えています。「担い手の確保育成」も「農地利用の最適化」も「魅力ある地域づくり」の上に成り立つのです。

「2階建て」に代わるオリジナル方式

 筆者は、担い手が不在、または不足している地域を回り、現場の意見に耳を傾けました。担い手は「条件の悪い農地など受けられるか」と言いながら、じつは営農環境の悪化を懸念しているのです。鳥獣害の拡大も心配しています。自作希望農家は「自分ができるうちは続けたいんだ」と言い、借り手がなく自分で管理できない農地を持つ農家からは「周辺に迷惑をかけているが自分では何もできない。誰か管理してもらえないだろうか」という言葉が返ってきました。

 今から30年ほど前(平成の初め頃)、愛知県は集落営農先進県でした。しかし、リーダーや構成員の高齢化に伴い、いつしか集落営農の取り組みも消滅し、全国と比べて5年も10年も遅れをとった感があります。全国では「2階建て方式」をとる集落が増え、その「2階部分」の統合も進んでいます。「1階部分」の集落営農組織も数少ない愛知県において、全国の主流は「2階建て方式」といっても、推進は容易ではありません。

 そのようななかで、地域みんなの想いをかなえるシステムはないだろうかと考え、2017年7月に提案したのが「地域まるっと中間管理方式」です。これは、集落営農の法人化の新たな取り組み手法として、愛知県農業振興基金が発案した「オリジナル方式」です。

 国は、すぐに8月25日付け経営局長通知「『農地中間管理事業の加速化に向けた取組の更なる強化について』の一部改正」において、参考となる取り組みとして紹介しました。また、他府県からの視察研修や問い合わせも相次ぎ、すでに15件を超えています。

一般社団法人化の四つのメリット

 全国では、2018年2月1日時点で1万5111の集落営農組織があります。そのうち5106組織が法人化され、そのほとんどが農事組合法人の形態をとっています。集落営農の法人化の手法として定番化しています。しかし、この定番方式がしっくりこない地域もあります。自作希望農家を取り込みにくいという難点があり、遊休農地など条件の悪い農地も含めて管理している取り組みはあまりないと感じています。

 この問題をクリアするために、新提案として一般社団法人という形態を選びました。そして、一般社団法人を「非営利型法人」として設立します。その主なメリットは次の四つです。

  • (1)担い手どうし、および自作希望農家が共存できます。言い換えれば、ゆるい共同体です。それは、「特定農作業受委託(*1)」という方式をとることにより成り立ちます。
  • (2)中山間地域等直接支払、多面的機能支払等の取り組みを一体的に運営できます(会計を区分して運営)。
  • (3)設立が簡便です。
  • (4)地域集積協力金が非課税になります。

*1 特定農作業受委託 農作業を受委託する契約で、(1)受託者が農産物の生産のために必要な基幹的な作業を行ない、(2)生産した農産物を受託者の名義で販売できるもので、契約を締結すると販売権は受託者にある

みんなの想いをかなえるシステム

 地域には、担い手、出し手、自作希望など様々な農家がいて、様々な想いがあります。「地域の守るべき農地を地域のみんなで守る」という視点から一般社団法人を設立します。その後、出し手はもちろんのこと、担い手も自作希望の農家もみんな地域まるっと(まるごと)機構に農地を貸し出すとともに、法人に加入します。地域農業の振興に果たすJAの役割は極めて重要ですので、できればJAも加入して事務局を担当することを期待しています。そして、機構は、地域が設立した一般社団法人に、借り受けた農地すべてを貸し付けます。このシステムでは、高水準の地域集積協力金を期待できます。

 組織に農地を貸し付ける場合、理事のうち一人以上の者がその法人の行なう耕作または養畜に常時従事するという要件があります。また、農地中間管理事業は担い手への集積を促進する施策ですので、一般社団法人が農業経営基盤強化促進法第12条に基づき、市町村から経営改善計画の認定を受けて認定農業者になる必要があります。地域の農地を地域が自主的に守っていく取り組みであることから、市町村の理解と支援を得られるものと期待しています。

 一般社団法人は、一部直接経営を行なうとともに、直接経営に携わる担い手以外の担い手、自作希望農家に対しては、特定農作業受委託契約を締結します。

 農地の利用権が一般社団法人にあることがポイントであり、ここが任意の集落営農組織との大きな違いであり重要です。農地中間管理事業があるからこそ提案したシステムであり、農地中間管理事業がこのシステムを一層魅力あるものにしています。

非営利型法人の要件

 一般社団法人は、定款の定めによって非営利性を徹底することにより「非営利型法人」に該当すれば、法人税法上、公益法人等として取り扱われ、収益事業にのみ課税されます。どのようにすれば「非営利型法人」に該当するのでしょうか。要件は、(1)剰余金の分配を行なわない旨の定めが定款にあること、(2)解散時の残余財産を国・地方公共団体・公益法人に帰属させる旨の定めが定款にあること、(3)理事及びその理事の親族等(3親等以内)である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること、の三つです。

一般社団法人の運営イメージ

 一般社団法人が行なう事業、構成員、農地利用の関係を下に示します。事業は、機構からの農地借受、地域資源(農地)管理、農業経営、農作業委託など6事業です。

一般社団法人の運営(構成員・事業・農地利用)

 構成員については、理事は3名以上必要です。理事のうち1名が理事長(代表理事)になります。理事のうち少なくとも1名(通常は理事長)が農業経営事業に携わります。また、法人の農業経営の将来を担う会員(従業員)を確保し、理事長とともに農業経営に携わってもらいます。この際、理事長及び法人の農業経営に常時従事する会員(従業員)の社会保険料の2分の1については、法人が負担します。

 農地利用については、会員へ農地を貸し付け(転貸)することはできません。直接経営を行なう農地以外については、法人が担い手や自作希望農家と特定農作業受委託契約を締結します。ただし、直接経営も特定農作業受委託契約もできない農地が出てくれば、草刈り等の日当を法人が会員に支払って保全管理することになり、これは地域資源(農地)管理事業に位置付けます。

 収入は、農産物販売収入です。支出は、生産費、社会保険料、報酬・給料等です。結果として、法人としての利益(所得)は発生しないことになります。

 なお、地域集積協力金については、原則として、法人の運営に必要な事務経費、保全管理農地の草刈り等の日当、法人住民税の均等割(年間7万~8万円程度)に使います。

会計を二つに区分

 会計については、「農業経営事業会計」と「地域資源管理事業会計」に区分するとわかりやすいでしょう。

 農業経営事業会計では、農産物販売収入が経常収益になり、事業費が経常費用になります。経常費用には、生産販売に関わった者の役員報酬・給料手当、常時従事する者の社会保険料、資材費、燃料費等生産費などが該当します。

 地域資源管理事業会計では、受取補助金等として扱う地域集積協力金が経常収益になります。会費の徴収なしでも法人運営をスタートできる地域集積協力金は大きな魅力です。会費を徴収する場合は、それを受取会費として扱い、地域集積協力金と合わせて経常収益とします。

 地域資源管理事業会計の経常費用には、法人の運営に必要な事務経費等管理費が該当します。まず、総会、理事会の開催経費、役員報酬等です。経理事務については、年間10万~20万円程度の費用が必要となりますが、税理士に依頼することをお奨めします。また、法人住民税の均等割についても、地域集積協力金を充当して、地域資源管理事業会計から支出します。

地域の想いをかなえる取り組み支援が重要

 「地域まるっと中間管理方式」は、地域の様々な農家が農地や農業との結びつきを失うことなく、それぞれの想いをかなえるシステムになり得ることを紹介しました。型にはめるのではなく、地域の想いにしっかりと耳を傾け、その想いをかなえる取り組みを地域とともに展開していくことが重要なのです。「地域まるっと中間管理方式」が、愛知県をはじめ、全国の様々な地域で取り組まれ、「地域の農地を地域のみんなで守りたい」と考えている産地関係者の道標になれば幸いです。

『季刊地域』2019年春号(No.37) 「地域まるっと中間管理方式」とは」より


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『季刊地域』2019年春号(No.37) 「農」」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌でご覧ください。

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小田切徳美 著
「にぎやかな過疎」とは「過疎地域にもかかわらず、にぎやか」という、一見矛盾した印象をもつ農山漁村のこと。14章からなる本文に加え、「農的関係人口」などの基礎用語を、著者独自の視点で解説するコラム「農村再生キーワード」を11記事収録。註には本書の背景の深掘り解説や、参考図書の紹介なども多数盛り込む。農村再生のための政策構想を論じた『農村政策の変貌』(2021年)の続編であり、コロナ後の社会と2025年基本計画以降の展開を見据え、農村の過去~現在、そして未来への展望まで総合的に見通す一冊。
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