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試し読み季刊地域Vol.57 (2024春号)

和歌山

持っていないリソースはすべて「段ボールプレゼンブック」で集める!|地域マーケティング講座 #3

2025年10月23日、『季刊地域』の執筆陣が語る全2回のセミナー「ゆるがぬ暮らしをつくる~『季刊地域』セミナー」が開催されます。セミナーを記念して、第1回講師・猪原さんの連載をご紹介。セミナーへの参加前に、ぜひお読みください。

執筆者:猪原有紀子(和歌山県かつらぎ町・くつろぎたいのも山々)

ビジョンを伝え、応援者を得るツール

 「やりたいことはあるけれど、仲間もいないし手元には何もない……。どこから始めればいいんだろう」

 そんな読者の皆さんに、事業をつくるうえで必要なリソース(人材や資金などの経営資源)が外からどんどん集まってくるたった一つの方法をお伝えしようと思います。

 今回のテーマは、私自身が6年前に編み出した「段ボールプレゼンブック」です。これは、私が和歌山県かつらぎ町に移住したとき、周囲の人々に自分のビジョンを伝え、応援者を得るために活用したとっても効果的なツールです。

 地方で挑戦する際、特に新しい環境でゼロから始めるとき、この方法がどれほど有効か、実体験を交えてお伝えしようと思います。

著者:猪原 有紀子

兼業農家でありながらソーシャルビジネスを複数立ち上げる。「無添加こどもグミぃ〜。」販売、「くつろぎたいのも山々」運営、女性の社会起業スクール「SBC」主宰、株式会社やまやま代表取締役。

頭の中にあるモノを外に出す

 私がかつらぎ町に移住したのは2018年5月のこと。当時、三男は生後1週間。長男と次男は保育園児でした。私は大阪市内から引っ越してきたばかりで、かつらぎ町には知り合いもおらず、農業経験も農地も何も持たない状態でした。

 移住して半年が経った頃、「子連れでも疲弊しない観光農園」を私だったらつくることができる!という想いが湧いている一方で、現実的にどう進めていけばいいのかまったくわからない、という状態でした。

 私はまず、頭の中にあるモノを外に出すことから始めました。家にあったアマゾンの段ボールを切り開き、その真ん中に自分のミッションを書きました。その周りには、私がつくりたい観光農園のイメージ写真を貼り付けました。仕事を通して力になりたい、都会で子育てをしているお母さんの写真や、都会のタワーマンションのベランダから外をながめる、自然体験が不足している子供の写真も貼り付けました。

 これが私が制作した「段ボールプレゼンブック」です。これを制作しているときはとっても楽しくて、リビングをぐちゃぐちゃにしながら夢中でつくったことを今でも覚えています。頭の中にあるイメージを外に出したことで、「これを私はつくればいいんだ」とゴールが明確になり、とてもすっきりしましたしワクワクしました。

 そして、このプレゼンブックを持って、ママ友たちにプレゼンを開始しました。

段ボールプレゼンブックを持つ筆者。パワーポイントやA4サイズの紙の資料よりインパクトがある
段ボールプレゼンブックを持つ筆者。パワーポイントやA4サイズの紙の資料よりインパクトがある

応援者が次々集まる奇跡

 かつらぎ町に来た当初、私は一人も知り合いがいない状態だったので、もちろんママ友もいません。三男を連れて町の子育てセミナーに参加したり、保育園の行き帰りであいさつをしながら、ママ友をつくることから始めました。

 そのママ友たちに段ボールプレゼンブックでプレゼンすると、「すごーーーい!」と、まだ何も形になっていないにもかかわらず一緒にワクワクしてくれ、応援してくれる人が現われました。

 ある日、ママ友の1人が「ゆっこちゃん、あの土地の持ち主知ってるで」と教えてくれました。驚いたことに、私の家の横にある800坪の耕作放棄地の持ち主を紹介してくれたのです。その土地は、プレゼンブックをつくったときから目をつけていた場所で、「ここを整備すれば、最高の観光農園ができる!」と確信していた土地でした。

 土地の持ち主の方に段ボールプレゼンブックでプレゼンすると「かつらぎ町によく来てくれたね〜! 応援するよ!!」と言ってくれ、信じられないほど安い価格で土地を貸してくれました。この出来事は、観光農園プロジェクトのスタートを大きく後押ししてくれました。

 土地が手に入った後、この広大な土地をどう整備するかという問題が立ちはだかりました。建設会社に見積もりを出してもらったら、整備だけで1000万円かかるということで断念。

 そんなとき、またまた段ボールプレゼンブックでプレゼンしていたママ友が、「ゆっこちゃん、いい人おるから紹介するわ」と言ってくれました。紹介されたのは神田さんという大工さん。なんでもつくれる神田さんは、ご自宅も自分で建てたというその道のプロ。神田さんに段ボールプレゼンブックを見せると「いいね〜! 応援するよ!」と言ってくれ、なんと800坪の耕作放棄地を格安で整備してくれることになったのです。

 こういったことがプレゼンする度に毎回起こり、事業推進に必要なものが応援者を通じて外から集まってくるようになりました。

必要な鍵は他人が渡してくれる

 今まで300人近い人にプレゼンをしてきました。自分がワクワクしていると、それは相手にも伝わり、一緒にワクワクしてくれます。そして、その取り組みが社会にいいことであれば応援してくれます。

 私たちは、自分のチャンスは自分では見えません。しかし、私のチャンスは他人には見えています。みなさんも自分のことはわからないけれど、他人のことはよく見えますよね?

 だから、自分だけで考えていても事業は形になりません。あなたの脳みそから外に出して人に話していくなかで、あなたの取り組みに必要な鍵を他人が渡してくれるんです。その鍵はパズルのピースのようなもので、そのピースを当てはめながら事業をつくっていくイメージです。

つくり方と活用法

 この経験を通して、段ボールプレゼンブックがいかに強力なツールかを実感しました。では、あなたが地方でプロジェクトを進める際に、段ボールプレゼンブックを使って応援者を得るための手順をお伝えします。

(1)ミッションを中心に書く

 段ボールの真ん中に、あなたのプロジェクトのミッションを書きましょう。私はよく「北極星」と言っていますが、「あなたは仕事を通して誰の力になるのか?」ということです。

(2)ビジュアルを使ってアイデアを可視化する

 ミッションの周りに写真やイラストを貼って、具体的にどんなプロジェクトなのかを視覚的に示しましょう。自分の頭の中にあるアイデアを、他の人が見て理解できる形にします。

(3)ストーリーを語る

 ただ絵や写真を見せるだけではなく、なぜそのプロジェクトが必要か、を語ることが大切です。感情を込めたストーリーを伝えることで、相手は共感しやすくなります。私はもともと住んでいた大阪市内の自然の少ない写真を貼り、私はここから移住したんです、とストーリーを伝えていました。

(4)応援を具体的に求める

 どんなサポートが必要か、を具体的に伝えましょう。土地が必要ならそのことを、技術や人手が必要ならそのことを明確に伝えることで、相手がどう支援できるかを考えやすくなります。

筆者が主宰する社会起業スクールの講座生はみんな段ボールプレゼンブックをつくる
筆者が主宰する社会起業スクールの講座生はみんな段ボールプレゼンブックをつくる

 段ボールプレゼンブックは、シンプルでありながら強力なツールです。特に、地方でゼロからプロジェクトを立ち上げる際には、あなたのビジョンを目に見える形で伝えることが重要です。

 ぜひ読者のみなさんも、段ボールプレゼンブックをつくってみてください。そして、あなたが実現したいことを地域の人々に伝え、仕事を通して人生で出会うべき人にたくさん出会っていただきたいと思います。  次回は、自治体や地域を巻き込むときに大事なコミュニケーションについてお話しします。お楽しみに!

 

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松永桂子 編著、尾野寛明 編著
いま地域をベースに活動する20歳代後半から30歳代くらいの世代からは、地域社会に貢献するというよりも、自分がしたいことに地域の課題解決の方向性をすり合わせていく――そんな生き方、働き方がみえてくる。そうした社会のデザイン能力が花開く場として地域が受け皿になっている。農山村や地方都市、大都市の下町で活躍する一人ひとりの「なりわい」づくりに光を当て、そのライフスタイルや価値観を浮き彫りにする。若者を地域の担い手として育成する中間支援組織についても詳述。
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