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季刊地域Vol.57 (2024春号)試し読み

長野

【「使い切れない農地」活用 】たとえばこの品目で粗放利用 ヘーゼルナッツ

最近、ヘーゼルナッツ味のアイスやお菓子をよく見かけるようになった。
だが今、日本で流通しているもののほとんどはトルコからの輸入品。しかも、2021年まで1000tほどだった輸入量が、22年には3万2000tに!30倍以上の急増だ。
そんな人気沸騰中のヘーゼルナッツを日本に取り入れ栽培し、広めているすごい一家が長野県にいるという。ナッツは何となく南国地方の産物かと思っていたが、違うのか――?

長野県長野市 岡田浩史さん・晃治さん 、文・写真=編集部

左3人が岡田さん家族。3人目が浩史さん、左は息子・晃治さん、妻・珠実さん

雪の中のヘーゼルナッツ畑を見て

 長野市古里地区でヘーゼルナッツ栽培を始めたのは岡田浩史さん(63歳)。当時、食品加工機械の輸入商社に勤めていた浩史さんは、出張先のイタリアで冬の山間部を訪問する機会があった。雪が降りしきる中、まるで故郷の長野を彷彿とさせる狭く曲がりくねった道沿いにヘーゼルナッツ畑が続く。「この木がリンゴなら、ここはまさに長野じゃないか!」という光景だった。浩史さんもそれまでナッツは南国のものと思っていたが、これなら寒さの厳しい地元長野でもできる!と、希望をもって帰国した。

8月中旬に木から落ちてきた完熟の実を拾って収穫。3年目から味見程度の量だが収穫できる。5年目には1本につき2~3kg、成木になる10年以降で5kgとれる

 温暖化のせいで、「リンゴといえば長野」という立場も危うくなるかもしれない。次の特産は間違いなくヘーゼルナッツだ!と地域の農家に話すと、「ヘーゼルナッツってなんだい?」「あったかいところのもんだろ」という反応で、誰も取り合ってくれなかったという。お菓子の加工機械を取り扱う浩史さんにとってヘーゼルナッツは身近な食材。しかし、ふつうの農家には聞いたこともない馴染みのない作物だったのだ。

ヘーゼルナッツは西洋ハシバミとも呼ばれる、カバノキ科ハシバミ属の落葉樹。実は2cmほどの大きさ。殻を割って中身を食べる

 浩史さんは、勉強のため訪れたヨーロッパで、農家の農場に、ワインやチーズ目当てのお客さんが集まってにぎわっているのを何度も目にした。農業は未経験だった浩史さんだが、そんな光景が忘れられず会社を早期退職。14年に遊休農地でのヘーゼルナッツ栽培と地元農産物を使ったアイスクリーム店を始める。すると、本気で事業を始めた浩史さんを見て、一緒にヘーゼルナッツを栽培してくれる農家も現われた。

栽培が簡単で放棄地でも育つ

 19年、このような浩史さんの人生の転機をテレビ番組が取り上げた。大いに話題になるとともに、ヘーゼルナッツ自体にも注目が集まり始めた。日本で栽培できる驚きに加え、ヘーゼルナッツは栽培が簡単で耕作放棄地でも育つからだ。

冬のヘーゼルナッツの木。根元から株立ちしていて、4mほどの高さ

 栽培で気を付けるべき病害虫はカミキリムシくらいで、殻が厚いので鳥や小動物の害に遭わない。水はけがよく日当たりがいい適地を選べば、特に施肥をせずとも育つ。管理作業は主に株間の草刈りと剪定で、収穫は地面に落ちた実を拾うだけだ。

 浩史さんの20aの畑には、そんなヘーゼルナッツ栽培の見学に、月に80人もの人が来るようになった。4年前からは息子の晃治さんも経営参画。好きだった自動車整備・営業の仕事を辞め、父と一緒に仕事をするようになったという。

国産需要あり!苗木を売って実も買い取る

 岡田さん親子は現在、ヘーゼルナッツの苗木を輸入し販売している。そして、その苗木を買って育てた農家から収穫できた実を全量買い取り、アイスクリームやお菓子へ加工・販売する事業を手掛けている。

 昨年は、農家15人から実を買い取っており、・・・

農地を守る(なにで?)ーたとえばこの品目で粗放利用」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • ・ダッタンソバ 耕作放棄地326haで有機栽培
  • ・ヨモギ
  • ・ヒツジ
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農文協 編
実家や地域の「使い切れない農地」「持て余した農地」は、新規就農者や農的な暮らしを求める人にとっては、活用したい地域資源。手を入れれば、有機農業や自給菜園、養蜂の蜜源地など、新しく農業で生計を立てたり、仲間と自給自足を楽しんだりできる「余地(余裕地)」でもある。本書は、『季刊地域』『月刊現代農業』に掲載された記事を再編集し、「荒らさない、手間をかけない、みんなで耕す」農地活用の工夫を大公開。「25のおすすめ品目」「64の用語解説」「知っておきたい農地制度Q&A」など、田舎暮らしに関心がある人にもおすすめ。
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