最近、ヘーゼルナッツ味のアイスやお菓子をよく見かけるようになった。
だが今、日本で流通しているもののほとんどはトルコからの輸入品。しかも、2021年まで1000tほどだった輸入量が、22年には3万2000tに!30倍以上の急増だ。
そんな人気沸騰中のヘーゼルナッツを日本に取り入れ栽培し、広めているすごい一家が長野県にいるという。ナッツは何となく南国地方の産物かと思っていたが、違うのか――?
長野県長野市 岡田浩史さん・晃治さん 、文・写真=編集部
雪の中のヘーゼルナッツ畑を見て
長野市古里地区でヘーゼルナッツ栽培を始めたのは岡田浩史さん(63歳)。当時、食品加工機械の輸入商社に勤めていた浩史さんは、出張先のイタリアで冬の山間部を訪問する機会があった。雪が降りしきる中、まるで故郷の長野を彷彿とさせる狭く曲がりくねった道沿いにヘーゼルナッツ畑が続く。「この木がリンゴなら、ここはまさに長野じゃないか!」という光景だった。浩史さんもそれまでナッツは南国のものと思っていたが、これなら寒さの厳しい地元長野でもできる!と、希望をもって帰国した。
温暖化のせいで、「リンゴといえば長野」という立場も危うくなるかもしれない。次の特産は間違いなくヘーゼルナッツだ!と地域の農家に話すと、「ヘーゼルナッツってなんだい?」「あったかいところのもんだろ」という反応で、誰も取り合ってくれなかったという。お菓子の加工機械を取り扱う浩史さんにとってヘーゼルナッツは身近な食材。しかし、ふつうの農家には聞いたこともない馴染みのない作物だったのだ。
浩史さんは、勉強のため訪れたヨーロッパで、農家の農場に、ワインやチーズ目当てのお客さんが集まってにぎわっているのを何度も目にした。農業は未経験だった浩史さんだが、そんな光景が忘れられず会社を早期退職。14年に遊休農地でのヘーゼルナッツ栽培と地元農産物を使ったアイスクリーム店を始める。すると、本気で事業を始めた浩史さんを見て、一緒にヘーゼルナッツを栽培してくれる農家も現われた。
栽培が簡単で放棄地でも育つ
19年、このような浩史さんの人生の転機をテレビ番組が取り上げた。大いに話題になるとともに、ヘーゼルナッツ自体にも注目が集まり始めた。日本で栽培できる驚きに加え、ヘーゼルナッツは栽培が簡単で耕作放棄地でも育つからだ。
栽培で気を付けるべき病害虫はカミキリムシくらいで、殻が厚いので鳥や小動物の害に遭わない。水はけがよく日当たりがいい適地を選べば、特に施肥をせずとも育つ。管理作業は主に株間の草刈りと剪定で、収穫は地面に落ちた実を拾うだけだ。
浩史さんの20aの畑には、そんなヘーゼルナッツ栽培の見学に、月に80人もの人が来るようになった。4年前からは息子の晃治さんも経営参画。好きだった自動車整備・営業の仕事を辞め、父と一緒に仕事をするようになったという。
国産需要あり!苗木を売って実も買い取る
岡田さん親子は現在、ヘーゼルナッツの苗木を輸入し販売している。そして、その苗木を買って育てた農家から収穫できた実を全量買い取り、アイスクリームやお菓子へ加工・販売する事業を手掛けている。
昨年は、農家15人から実を買い取っており、・・・