
前回のテーマ「JAの概算金」は、2024年産米の場合は前年よりだいぶ高くなり、長年の低米価に苦しんできた農家は一息つくことができました。ただし、それだけでは小売価格5kg4000~5000円という高騰は説明できません。今とは正反対、米価が大幅下落した10年前の『季刊地域』2015年冬号(No.20)には、米の集荷業者である全農と米卸との関係がうかがわれる生々しい記事がありました。まず、その記事を振り返ってから、昨年から今年にかけての米価の推移を見てみましょう。
文=編集部、イラスト=アサミナオ

●全農は、もっと強気で行くべきだった
大手の米卸・千田みずほ(株)業務開発室長の佐藤孝さんを訪ねてみた。卸の業界ってなじみがないから、どんな怖い人が出てくるのかと緊張してたら、佐藤さんはとてもざっくばらんな方みたい。「複数年産米コメ市場」など新しい米市場の役員もしていて、米の流通業界全般に明るい人だ。
佐藤さん、2014年の農協の概算金が下がりましたが、これを卸の立場からどう見ます?
「いやもう、まったく情けないですよ。米の値段というのは、JAグループの概算金がベースになるんです。みんなそれを見て、価格を決めていくんだから、影響力としては絶大なんです。
たしかに14年の夏頃は在庫がたくさんあったし、市場も弱くて米の売れゆきはよくなかった。でも逆にこういうときほど頑張って、値段を下げるよりも、市場に対して『農家が生産費を確保できる金額は維持したいから、これこれの額でお願いします』っていうべきでしょう。JAグループは、いまだ米流通の4割ものシェアを持ってるんだから、我々に対してもっと強気な値段を提示できる。何かにつけて『生産者を守るため』っていうんだから、こういうときこそそうすべきでしょう」
おっと、いきなりの展開。卸の人って、JAをそんなふうに見てるんだ。でも言われてみると、けっこう納得。農家のために、全農ももうちょっと頑張ってもよかったのかも……。

●概算金が上がったり下がったりで、卸は右往左往
でもね佐藤さん、全農の言い分としては、概算金を下げたのは、卸が米を買う気が全然なさそうだったせいだそうです。契約済みの米をいつまでも引き取らず、農協の倉庫に在庫として置きっぱなしにして売ってくれなかったって……。
「うーん、その言い方はちょっと違います! なんで2014年の在庫が多かったのか、14年産米がこんなに値を下げなければならなかったのかは、2010年までさかのぼる話です。
4年前、10年産米も安かった(表)。概算金も相対取引価格も安くなって、あのとき小売りも外食などの業務用も、みんなその値段での商品設計をしてしまったんですね。でもその年、全農は概算金を安くしたせいで集荷率をガクンと落とした。商系の集荷業者に買い負けしてしまったんです。
全農は集荷手数料で食ってますからこの状況はまずい。そこで翌11年産は概算金も相対基準価格もボンっと上げたんです。さらに12年産も上げた。2年間でなんと30%も上げたんです。普通、2年で3割値上がりする商品なんてないでしょう?
困ったのは買うほうです。10年産の価格で商品設計していた業務需要はみんなそこで、ご飯の盛りつけ量を減らしました。ご飯メニューをパスタに替えたり、弁当のご飯を減らしたり……いろんなことが起きた。このときの中食外食の対応で米の消費は40万t減った、と業界ではよくいわれています。このぶんが在庫過多になった。
卸も大変でした。2年で30%の値上がりのうち、小売に転嫁できたのは5~7%。デフレだったし、消費者価格はそんなに上げられないよ、売れなくなるから、と言われました。事実、この頃の店頭価格はそんなに上がってなかった。結局、卸がかなり割を食った。値上がり分を吸収できなくて、7割くらいの卸が赤字転落したんです。
今回の14年産の値下がりは、だから反動です。全農が11~12年に概算金を上げたせいで需要が減って、倉庫に米が残った。卸も赤字で余裕がなくなった。全農はそれにビビって、14年は概算金を下げざるを得なかった。自ら墓穴を掘った、と我々からはそう見えます」
相対取引価格
農協や全農など「産地」から、米卸などの「流通業者」への実際の販売価格の平均。農水省が一定数量以上扱う業者へ聞き取りして、月に1回発表。
●小売には、なかなか頭が上がらない
ところでスーパーでは最近、5kg1380円で米がならんでるんですけど、これだと生産者手取りはどのくらいになるんでしょうか? 小売とか卸さんの中間マージンってどのくらいですか?
「ケースバイケースですよ。ホントにいろいろ。でもあえて言えというなら……、最終小売値を100とした場合、昔は小売20%、卸10%って言われてたんですが、今はそんなのあり得ない。販売競争激しくて、小売のバイイングパワーがすごいですから。まあいいとこ小売15%、卸5%くらいですかね」

スーパーはやっぱり力が強いんですか?
「販売力がありますからね。消費者の米の入手経路は半分はスーパー。50%握ってますから強いです。値段を下げろと言われるより前に、納入する側がバイヤーに情報入れるんです。『14年産は在庫も多いし、作柄いいんで値段崩れますよ(安くしますんで、うちから買ってください)』って。バイヤーのほうも、最近は毎回コンペ方式で、『取引条件のいいところ・下げ幅の大きいところから買いますよ』っていう態度。昔からつきあいがあるから買う、とか、そういうのなくなってきましたね」
大変ですね。とにかく他より安く入れないと。
「そうなんです。だから卸だって安いところを探す。全農より安く仕入れられる、民間の集荷業者や農家を探して直接買い取ったりもしています」
なるほど、こうして業界全体で米の価格水準がどんどん下がっていくわけね。
(『季刊地域』2015年冬号「A子、卸へ行く! 「米余り」はムードなのか?」の一部抜粋です)
●2024年産の小売価格は、なぜこんなに高い?
さて、ここからは現在の話。下の図は、上の文中にもある相対取引価格とスーパーなど店頭小売価格の推移をグラフにしたものだ。小売価格のほうは、店頭での白米5kgの価格を玄米60kg当たりに換算して比較している。
10年前の記事にはJAグループの集荷率は4割とあるが、JAグループの全国組織・全農の集荷率は2024年産では26%にとどまると発表されている(2025年3月25日)。その中でもJAの集荷率が比較的高いと思われる秋田県のあきたこまちについて比べてみた。

注目したいのは、相対取引価格と小売価格の金額差の広がりだ。相対取引価格は全農などの米集荷業者と米卸の取引価格。この金額の中には、農家への支払い額と各地のJA(単協)や全農の手数料、それに流通経費を含む。
昨年4月時点で小売価格は相対取引価格に比べて+6747円だ。ところが、一番差が開いた今年1月にはそれが+2万3566円、今年4月でも+2万75円もある。小売り段階の上乗せ額を昨年4月と比べると1万3000円以上もアップ! 農家が受け取っている金額に比べると、小売価格は高くなりすぎている。
10年前の米価下落ではJAの概算金が値下がりの引き金になったように思われた。しかし、今回の高騰は小売価格が先導している。概算金の延長にある相対取引価格はようやく2月になって上がり始めた。
単純に考えれば、集荷業者より後、卸か小売り段階でそれだけ利益が蓄積されていそうだがどうなのだろう。
米価高騰を考える(全6回)
- Vol.1 ご飯1杯54円は高いか?安いか?
- Vol.2 お米の値段はどう決まる①――JAの概算金とは?
- Vol.3 お米の値段はどう決まる②――米卸、相対取引とは?
『季刊地域』2015年冬号「A子、卸へ行く!「米余り」はムードなのか?」の全文は、ルーラル電子図書館でご覧ください。