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季刊地域Vol.58 (2024夏号)試し読み

京都

【集落内外みんなが喜んだ】これは墓じまいではなく墓びらき

墓じまいとは、先祖の墓を撤去・処分し、敷地を返すことです。京都府南丹市園部町の口司地区では、地域全体で墓じまいを行い、新たに「合祀墓」を建立する取り組みが行われました。この取り組みは、地域全体の負担を軽減し、先祖供養の継続を図るための新しい方法として注目されています。

京都府南丹市・口司地区、文・写真=伊藤雄大

 先祖の墓を撤去・処分し、敷地を返すことを「墓じまい」という。もとの墓から取り出した遺骨を別の墓や納骨堂に移す「改葬」も含むことが多い。墓じまいの件数は年々増えており、2022年度は10年前の2倍近い15万1076件に上る。主な理由は「墓を守る後継ぎがいない」「現住所が実家から遠く、墓参りができない」などで、「少子高齢化」「過疎化」と関係が深い。

 京都府南丹市園部町には地域ぐるみで墓じまいをしたところがある。人口100人足らずの口司こうし地区だ。

佛名寺の合祀墓と森屋徹全住職(右)、檀家総代の西田安夫さん

このままでは檀家も寺も続かない

「みんなで墓じまいをしよう」と持ちかけたのは、口司地区にある佛名ぶつみょう寺の森屋徹全てつぜん住職だった。
 森屋さんは、15年前に住職として口司地区に来たときから「年をとって足が悪くなり、墓の面倒を見るのが難しくなった」「後継者もいないので、先祖の供養が難しい」「長男がいるが口司地区外に住んでいて戻ってこないし、お墓の負担を減らしたい」などといった相談を受けるようになった。墓じまいというものは寺にとってネガティブなものだ。離檀を兼ねて墓じまいするわけだから、考え直すよう説得する住職もいる。檀家が減っても寺の維持費は変わらないので、残った他の檀家の負担が増える。するとますます離檀が進み、寺の存続が危うくなるからだ。

口司地区。手前が佛名寺

 森屋住職は、この問題を正面から受け止めることにした。

「少子高齢化と過疎化はこれからも進んでいくように思います。ここで檀家さんをなんとか引き止めても、本当の解決じゃない。寺と檀家の関係も昔とは変わってきている。もっと先を見据えて解決しないと、20年後にはダムが決壊するようにダメになってしまう」

 こうして19年に、個人墓の維持管理の負担を減らすべく「みんなで墓じまいをして、みんなでひとつの墓に入ろう」と呼びかけたのだった。

集落の全檀家が合祀墓に

 集落みんなで墓じまいし、新たに建立する「合祀墓ごうしぼ」にまとめて納骨する―。大胆な提案だったが、意外にも反対する人はいなかったという。

「そりゃあ、いずれそうなっていかなあかんわな。年をとってくると、山ん中にある集合墓地に行くのもしんどくなってきた。行事のたびに掃除をするのも大変」と檀家総代の西田安夫さん。今は若い人たちが頑張って墓地の草刈りをしているが、これから先、どうなるか……。

「それに、隣で眠るのも一緒に眠るのもそんなに変わらへん」と、合祀墓に集約することにも特に抵抗感がなかったという。

「これが10年、20年前だったら『なんでそんなことせなあかんねん!』となったと思います。みなさんもう少し若く、切迫感がなかったでしょうから。逆に10年後だと、高齢化がいっそう進んでいて、こういう話をすることすら難しかったかもしれません」と森屋住職。

 コロナ禍が始まる前にやれたのも幸いだった。1年かけて檀家一軒一軒に説明してまわり、ふだんは親だけが参加する総会に若い人たちも呼び、地域全体の問題としてしっかり話し合えた。

 その年の夏の臨時総会で話がまとまり、下口司集落は全檀家23軒が、上口司は檀家25軒のうち12軒が、合祀墓に納骨することになった。檀家には作業を担う石材店に払う墓の撤去費用5万〜8万円だけを負担してもらい、その他は無料とした。

石材店にもメリット

 合祀墓の建立費用は650万円で、費用は森屋住職と檀家役員で負担した。一般的に1000万円以上かかるところを石材店がだいぶ安くしてくれた。撤去した墓石を大事に持っておきたい人もいるだろうから、墓石を安置する「安眠墓」も合祀墓の隣につくることにした。これには150万円ほどかかる見込みだったが無料で済んだ。

安眠墓。墓石を安置するほか、墓を撤去する際に土中から出てきた無縁墓が並ぶ

 これだけの大幅値下げをしてくれたのには、石材店業界の事情もあるらしい。

「時代の流れで、お墓を建てる仕事は減って、墓じまいのほうが多いそうです。これからのことを考えると、一緒にやっていったほうがいいと考えてくれました。閉眼供養(魂抜き)をした墓石は産業廃棄物として粉砕するんですが、これに抵抗感を持つ人もいらっしゃいます。お寺に安置できるという選択肢があれば、墓じまいに対する安心感が高まる。先のことを考えれば、石屋さんの商売にとってもメリットがあるんですよ」と森屋住職。以下に述べるように、合祀墓を利用する人が増えていけば、墓じまいの仕事を受けることが見込めるからだ。

地区外、檀家以外にも開放

 20年10月には合祀墓と安眠墓が竣工。翌年の21年3月からは、口司地区外の、檀家でない人にも合祀墓を開放した。

「町にお住まいの方の中には、先祖代々のお墓がなく、ご自宅にお骨を何体も抱えておられる方もいます。新しくお墓を建てることもできないし、お寺との付き合いもないので誰に相談していいかもわからない。そんな不安を抱えた方々にもお墓を使ってもらうことにしたんです」

秋彼岸の法要の様子。地区内には珍しい若者や、小さな子供たちも大勢参加した 写真=森屋住職提供

 合祀墓を利用するハードルは低く設定した。佛名寺は曹洞宗の寺だが、国籍宗派は問わないし、戒名もいらない。檀家になって護寺会に入る必要もない。そのうえ「リーズナブル」と森屋住職。通常なら50万〜60万円ほどかかる墓じまいが16万円ほどで済む(表)。

「それから、永代供養がミソなんです」と森屋住職。永代供養とは、様々な事情でお墓参りができない人に代わって、寺が遺骨の管理と供養をしてくれること。墓じまいと同じく最近よく使われる言葉で、寺によって、供養の方法や「永代」の解釈が違う。たいていは本人夫婦一代限りで子孫に引き継ぐことはできないのがふつうだ。

 だが佛名寺の場合は、両親と子供の3世代が供養の対象となる。存命者の契約もでき、親が永代供養の費用を払っていれば子供世代は無料になる。一般的には1人あたり5万〜30万円が相場だが、3世代で8万円と破格だ。「これだけ安いのは、おそらく日本でうちだけです」。

地区外から約40軒が契約

 地区外への宣伝にも力を入れてきた。一つはチラシのポスティング。南丹市内だけでなく隣接市町村にも足を延ばし、住職と檀家で2万枚を配りきった。

 チラシの反響には驚いた。寺に帰らないうちに「私たちのためのお話だ」と、相談の電話があったほどだ。

 インターネットでのPRも一般企業並みにやっている。ホームページはもちろんだが、住職と檀家が墓じまいの相談場面を実演するユーチューブチャンネルも立ち上げてみた。・・・

集落」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

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日本調理科学会 企画・編集
日本には、初午、ひな祭り、お彼岸、田植え、お盆、秋祭り、報恩講と四季を通じて行事があり、その日のための料理が地域ごとに引き継がれています。大切な素材を使い、丁寧に下ごしらえしてつくったごちそうを食べることが、明日からの労働の活力源に、そして暮らしの節目にもなっていました。
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