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連載生きもの・動物と一緒に田んぼを守る

新潟

魚道・ビオトープづくり 田んぼまわりの生きもの 保全のワザ|生きもの・動物と一緒に田んぼを守る vol.4

2007年の「農地・水・環境保全向上対策」の開始以来、栃木県では「田んぼまわりの生きもの調査」が必須項目となっている。しかも、調査して終わりではない。結果をもとに生態系に配慮した施設づくりにも力を入れてきた。
先進地の保全の工夫を学ぶべく、栃木県小山市の「みたとうぶ保全会」を訪ねた。

田んぼ脇の排水路を整備した「生きもの水路」には、様々な淡水魚が遡上する。右から、みたとうぶ保全会代表の高瀬孝明さん、片柳伸三さん(68歳)、名渕正男さん(68歳)

取材対象:みたとうぶ保全会(栃木県小山市)

『季刊地域』2021年夏号(No.46)「田んぼまわりの生きもの 保全のワザ」より

撮影=曽田英介

人気の生きもの調査

「おっ! カワニナが増えたな」

「ほんとだ。これでゲンジボタルが来りゃ最高だな」

 水路をのぞきこんで盛り上がっているのは、みたとうぶ保全会の面々。田植えが始まり、田んぼの周辺がにぎやかになってきた。

子供たちとの生きもの調査の結果、水路内にゲンジボタルのエサになるカワニナが増えていることがわかった
子供たちとの生きもの調査の結果、水路内にゲンジボタルのエサになるカワニナが増えていることがわかった

「この辺の田んぼはサギが多いだろ。それだけエサになる生きものが豊富って証拠さ」。代表の高瀬孝明さん(74歳)は、活動の成果に自信満々の様子だ。

「農地・水」から多面的機能支払に名称が変わっても、田んぼまわりの生きもの調査は人気メニュー。毎年7~8月、地元の小学生やPTAと一緒に田んぼや水路に入って昆虫や魚などの種類や数を調べるので、発見のたびにワイワイ盛り上がる。昨年はコロナで中止になったが、いつでも再開できるよう準備しているそうだ。

「なに、生きものを増やすワザだって? そりゃあ、生息環境を整えてやることだけど……、面倒な話より現場を見たほうが早いな」

 というわけで、さっそく案内してもらった。

田んぼと水路を魚道でつなぐ

 高瀬さん曰く、もともと小山市内の生きもの保全活動は、メダカの保護がきっかけだった。

 昔は、田んぼのような浅い水たまりがメダカなど淡水魚の産卵場所になっていたが、1980年代の基盤整備で排水路との落差が大きくなり、田んぼと水路のつながりが分断されてしまった。そこでもう一度、魚が田んぼと水路を自由に行き来できるようにしようと、10年ほど前に圃場を選んで設置したのが「水田魚道」だ。

「千鳥X型」と呼ばれる魚道。波形ポリエチレンのU字溝に左右の高さが異なる堰板を交互に設置することで、堰板の水たまりを利用して遊泳漁や底生漁が上りやすくなる(勾配は10分の1程度)
「千鳥X型」と呼ばれる魚道。波形ポリエチレンのU字溝に左右の高さが異なる堰板を交互に設置することで、堰板の水たまりを利用して遊泳漁や底生漁が上りやすくなる(勾配は10分の1程度)

 当時、伊保沼地区で排水路内の魚類を調べたところ、メダカ、タモロコ、ナマズなど6種類が見つかった。ほとんどが魚道を上って水田で繁殖する魚で、魚道設置後の調査では、モツゴ、ギンブナなどが加わって9種類に増えた。

モツゴ
モツゴ
コイ
コイ

「魚たちはイネと会話しているんだろうな。分けつ期に産卵し、イネの花が散るのを見て水路を下る。どんな話をしているのか、想像するのが楽しいんだよ」と高瀬さん。

 中干しの時期には、魚は「生きもの水路」に避難する。

生きもの水路には中干しの時期や冬に魚が避難する。夏場は水温が上がり過ぎないように太陽光発電で地下水をポンプアップして水路に入れる。これは酸素補給の役割もある
生きもの水路には中干しの時期や冬に魚が避難する。夏場は水温が上がり過ぎないように太陽光発電で地下水をポンプアップして水路に入れる。これは酸素補給の役割もある

廃材を使って自主施工

 水田ではなく水路の中に設置する「水路魚道」もある。

 たとえば、魚が遡上しやすいように落差工の下に玉石を置き、勾配を20%以下にした水路や、部分的に拡幅して単調な流れに変化をつけた水路、水が溜まる「深み」をつけて冬越しできる水路など、みたとうぶ保全会では水深や流速を考慮し、地区ごとに工夫をこらしている。

 こうした環境配慮施設は、「多面」の交付金を使って重機が得意な保全会のメンバーが手づくりしたものが多い。なかには、渋井地区や桶田地区のようにテストピースや古くなったU字溝など、地元の廃棄物を上手に活用して安く設置できた事例もある。

排水路の落差工にテストピースを100本ほどランダムに置く。勾配と水の流れを緩やかにすることでドジョウやタモロコが遡上しやすくなった
排水路の落差工にテストピースを100本ほどランダムに置く。勾配と水の流れを緩やかにすることでドジョウやタモロコが遡上しやすくなった
テストピースが大雨で流されないよう、軽トラ1台分の砕石で隙間を埋めて安定させた
テストピースが大雨で流されないよう、軽トラ1台分の砕石で隙間を埋めて安定させた
かつて農耕馬を洗うためにつくった「馬洗い場」の名残がある排水路(底は土)
かつて農耕馬を洗うためにつくった「馬洗い場」の名残がある排水路(底は土)

大小の玉石を置いて流れを緩やかにし、底に廃U字溝を埋設して「深み」をつくった。冬場、水路内の水がなくなっても深みの中に水と泥が残るので、ドジョウやタニシなどの冬眠場所になる
大小の玉石を置いて流れを緩やかにし、底に廃U字溝を埋設して「深み」をつくった。冬場、水路内の水がなくなっても深みの中に水と泥が残るので、ドジョウやタニシなどの冬眠場所になる

 また、水路のメンテナンスや草刈りなど、環境配慮施設の維持管理も「多面」の共同活動で行なう。

「自分たちでつくった施設だから愛着がわくし、改善点が見つかればすぐに手を入れることもできる。それに、施設の工夫ひとつで生きものが増えるのがおもしろい」

ビオトープは水温に注意

 上石塚・本郷地区では、生きもの調査の結果を踏まえ、4年前に休耕田を活かしたビオトープづくりを計画。水辺の生きものの生息環境を考え、約8aの面積の中に5aの池と0.3aのミニ田んぼの二つのエリアを設けた。

 排水路が一級河川の思川水系につながっているので、ビオトープ内の水路にはオイカワなどの川魚も見られるほか、タモロコやヨシノボリの幼魚、ドジョウ、トウキョウダルマガエル、ホウネンエビ、ガムシ類など、多様な生きものが確認できる。

通称「春の小川」。重機で掘って土水路をつくった。あえて蛇行させることで緩やかな流れを生み出し、護岸に石を並べて生きものたちの休憩場所を確保した
通称「春の小川」。重機で掘って土水路をつくった。あえて蛇行させることで緩やかな流れを生み出し、護岸に石を並べて生きものたちの休憩場所を確保した

 地元の子供たちと18年にビオトープ池を調べた際、魚類は5種類だったが、19年は14種類に増加。池と田んぼで生物相が豊かになり、魚のエサも豊富になった成果と、高瀬さんはみている。

水辺に自生するショウブや中島の周囲に沈めた土管が魚の隠れ家や産卵場所になる
水辺に自生するショウブや中島の周囲に沈めた土管が魚の隠れ家や産卵場所になる

 また、ビオトープの水温に注意することも大事だ。ベストは25~30°Cだが、夏場は直射日光で水温が上がりやすいので、日陰ができるよう池の中島にシダレザクラを植えたり、太陽光発電で冷たい地下水をポンプアップしている。

 最後に、生きもの保全活動を続けるための秘訣を聞いてみた。

「農家でも非農家でも、探究心がある仲間を見つけること。ナマズを捕まえたら腹を裂いて、どんなものを食べているのか、それはどこに生息しているのか。みんなでとことん追求するのは楽しいぞ」

 近年は子供が減り、生きもの調査を共同で開催する地区が増えているが、その分新しい発見や出会いもあると高瀬さんは前向きだ。


Web連載(全4回) 「生きもの・動物と一緒に田んぼを守る」


本記事は、『季刊地域』2021年夏号(No.46)「田んぼまわりの生きもの 保全のワザ」の抜粋です。以下、ルーラル電子図書館からすべてご覧いただけます。

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