農水省が「みどりの食料システム戦略」で進めようとしている持続可能な食料システムの構築の一環として、昨年1月に有機農業研究会を立ち上げた農協がある。茨城県のJA水戸だ。
組合長に就任してこの春で1年が経過した園部優さん(68歳)は、ネギなど複数の品目の野菜や野菜苗、米をつくってきた農家でもある。有機農業研究会の立ち上げを主導したほか、ネオニコチノイド系殺虫剤の使用を減らすことにも取り組んできた。

写真=編集部
取材対象者:園部優・JA水戸組合長
『季刊地域』2025年62号
文=編集部
Q.水戸の「柔甘ねぎ」は園部さんがつくり始めたそうですね
A. 柔甘ねぎはGI(地理的表示保護制度)登録されたJA水戸のオリジナルブランドで、ハウスでつくる軟白ネギです。露地栽培のネギと比べると名前のとおり柔らかくて甘く、辛味が少ない。白い部分の長さが1・5倍ほどあります。1995年に普及センターの紹介で先進地の北海道を視察したことをきっかけに、翌年からつくり始めました。現在は、水戸地区ネギ生産部会に所属する農家43人のうち17人が柔甘ねぎ部に所属しています。
柔甘ねぎは有機肥料中心の栽培で追肥はしません。出荷時期に糖度が高く硝酸態チッソが少なくなるように栽培しています。味と品質にこだわってきました。
出荷時期は11月から7月で、食感や味を良くするのにいつ播いたらいつ収穫するのがいいか、研究してきました。柔らかくするには早めに収穫したほうがいいんですが、圃場に長くおいたほうが糖度は上がるんです。かといって遅すぎると、襟首(葉が分かれているところ)の締まりが悪くなって品質が低下する。播種時期と収穫時期の組み合わせを細かく分けると18通りほど作型があります。作型の工夫とハウスの温度調節で、露地ネギが抽苔しやすい時期にも出荷します。

写真=JA水戸提供
防除については、夏に米ヌカを入れて還元型太陽熱消毒をしたうえ、まず除草剤を使わない。殺虫剤では有機リン剤を使いません。柔甘ねぎの栽培が始まった30年ほど前にはネオニコチノイド系殺虫剤(ネオニコ)が登場しましたが、これは最初から使っていません。
Q.農薬を減らすことを考えるようになったのはいつからですか
A.高校時代に有吉佐和子の『複合汚染』を朝日新聞の連載で読みました。公害問題と農薬の影響。純粋だったからね、これにまるっきり影響を受けた。だからバイクにも乗らなかった(笑)。農薬メーカーなどの反証本も読みましたよ。でも、人間への影響は心配ないと言えるのか? 私はこれはやばい、と思いました。
18歳で就農して、21歳のとき、国際農業者交流協会の研修生としてアメリカ・カリフォルニア州へ。紹介された研修先は、化学肥料を使わない農業に取り組んでいた日系人の農場です。ただ、そのような農場でも、トウモロコシのアワノメイガとウリ類のうどんこ病には農薬を使っていた。農家としてやっていくには使わないわけにはいかないのかな、と思いました。
帰国後は、父親がやっていたような慣行農業をするので精一杯です。まもなく自分の責任でイチゴを10aつくるようになり、17年間続けました。夏は苗の葉かき、年末から春はイチゴの収穫。文字どおり盆も正月もなかった(笑)。
ところが、ちょうど柔甘ねぎを始めた年、父親がヤマイモを掘る機械で大けがを負った。それをきっかけにイチゴを断念しました。以来、イチゴを柔甘ねぎの栽培に切り替えたようなかっこうです。
Q.柔甘ねぎの栽培はハウスなので病害虫の発生は少ない?
A.もともと露地ネギは、私が百姓を始めた頃にはすでにつくっていました。就農した頃はすべて手作業で、ウネ上げから土寄せまで全部鍬でやっていました。
ハウスだと露地より資材代がかかるので、小さい面積で収量を増やすため密植にします。それには広いウネ間が必要になる土寄せはできません。土寄せを繰り返す代わりに、遮光シートなどで光を当てないことでネギの軟白部分を長くするんです(詳細は内緒)。したがって、土寄せでネギの根元の土を動かさないから根を切らない。ハウス軟白ネギのメリットは、雨にあたらないことと根を切らないことです。
ハウスでも大雨で水が入ることはあるし、近年の夏の高温対策はたいへんですが、病気が少ないのは確か。感覚的には、ハウスのネギは露地の10分の1くらいの農薬でできる。といってもアザミウマのような害虫は出るし、保険的に農薬を使いますが……。ただ、柔甘ねぎの特長を出すためにも、使わなくてすむ農薬は使わない、外国で禁止もしくは安全性に疑いを持たれている農薬は使わない、というスタンスです。

Q.アザミウマの防除というとネオニコ剤がよく使われますよね
A.ネオニコが日本で最初に登録されたのは1992年。虫には効いても人間への影響は少ない、農薬をかけてもすぐ出荷できるような触れ込みでしたが、ネオニコも有機リン剤と同じで神経系に作用する。人間に影響しないのはおかしいと疑っていました。だから柔甘ねぎには最初から使わなかった。
さっきも言ったように、露地に比べると病害虫が少ないから、ハウスだと農薬をまったくやらなくてもできちゃうことはあるんですよ。だけど、自分の経験からも、この時期に失敗しないためには防除したほうがいいということがあるので、無農薬とはうたいません。どんな農薬を使うかは、ネオニコと有機リン以外で登録のある農薬はすべて試して部会として決めてきました。
ただ、露地ネギの部会ではネオニコも使うんですよ。だってネギに使える農薬として登録はあるし、効くんだもん。それでも、いかがなものか、と思いながら使っていますよ。
Q.水田の空中散布でもネオニコを使わないようにしたそうですね
A.自分がここしばらく感じているのは、昔に比べて赤トンボが激減したこと。田んぼに水が入るとゲコゲコうるさいカエルも少なくなった。秋はイナゴも少ない。ネオニコは赤トンボやミツバチなどの昆虫類への悪影響が指摘されていて、ヨーロッパではことごとく使えなくなっています。国内では、島根県の宍道湖のワカサギが激減したのは、ネオニコの影響でエサのユスリカ類がいなくなったからだと明らかにした研究もあります。
4年前に農協の専務になりました。専務は農協の病害虫防除についての責任者なんです。それで今言ったようなネオニコの弊害をまとめて、ドローンや無人ヘリで行なう空中散布の使用薬剤から外すことを提案した。それで翌年からまず水戸地区でやめました。ネオニコ系(*1)のアクタラが入っている薬剤をトレボン(合成ピレスロイド系)が入った薬剤に替えました。
そしたら去年のイネ刈りの頃にコウノトリが3羽飛んできた! JA水戸常澄大洗支店前に広がる田んぼです。この春にはつがいが、30mもある塔のてっぺんで巣づくりを始めました。周辺ではネオニコを空散から外して、減農薬・減化学肥料で特別栽培米「風彩常澄」を栽培しています。

ネオニコ剤は、田植えする前の苗にまく苗箱剤としてはまだ使うところがあるし、ネオニコを減らしたから飛んできたとは言えないかもしれませんが、減農薬のシンボルとしてとてもうれしい。コウノトリは体がでかいから大食漢。そんな鳥が巣づくりするということは、エサになる虫や小動物が多いのは確かでしょう。
「ネオニコをやめたからかなー」。売っているしよく効く農薬を「使うの、やめっぺ」と変わるには、そういう心に響く変化が必要だと思います。

Q.そういう変化の先に有機農業がある?
A.便利な農薬と化学肥料を使う農業から、少しでも持続可能な農業をめざす方向を構築していかないと、と思います。でも、有機農業も慣行農業もどっちも農業です。有機と慣行で分断されるものではない。
有機農業をやりたいと思っても忙しくてできないという農家も多いでしょう。JA水戸が有機農業研究会(*2)をつくったのは……
*1 ネオニコチノイド系殺虫剤には、スタークルやアルバリン(ジノテフラン)、ダントツ(クロチアニジン)、アクタラやビートルコップ(チアメトキサム)、ベストガード(ニテンピラム)、アドマイヤー(イミダクロプリド)、モスピラン(アセタミプリド)、バリアード(チアクロプリド)などがある(カッコ内は成分名)。野菜ではアザミウマ類やアブラムシ類、水田ではウンカ類やカメムシ類などの防除に使われる。政府のみどりの食料システム戦略では、2040年までにネオニコを含む従来の殺虫剤を使用しないこと、50年に化学農薬使用量半減を目指す。
*2 JA水戸の有機農業研究会については、月刊『現代農業』2025年4月号掲載の記事がルーラル電子図書館でご覧になれます。