
執筆者:中島健二(富山県南砺市・小院瀬見新聞田んぼ記者)
『季刊地域』65号(2026年春号)「江ざらいに助っ人60人が集まった」より
富山県南西部の端にある南砺市の、さらに端っこの小院瀬見(こいんぜみ)地区は住民わずか4世帯の8人。消滅寸前にさえ見える限界集落だが年4回、「江(え)ざらい」とこの地で呼ぶ水路清掃に驚くほど多くの助っ人が集まってくる。重労働のはずなのに「素敵な場所」と皆楽しそうに語るし、ファンクラブのようにその数は増え続ける。人呼んで「小院瀬見の奇跡」は過疎の中山間地の希望になるかもしれない。

豪雪地で欠かせない江ざらい
雨続きだった昨秋の小院瀬見。久々の快晴となった11月29日にこの年最終の江ざらいが行なわれた。早朝、集落中央にある集合場所の廃寺跡に行くと、参加者の車で満杯。小院瀬見自治会が数えると60人ほどに上った。「いや、すごい。また過去最多の更新です」。会長の堀宗夫さん(74歳)は清掃場所の割り振りなど対応に慌ただしそうだ。
今回のように冬を迎える直前の江ざらいは、雪が多い集落の暮らしにとって特に大切な作業だ。というのも冬季は山の林道が雪で閉ざされ、たった1本の市道が集落外へ出る唯一の手段になる。その除雪は水路から水を引いて路上にあふれさせる流水融雪が頼みの綱。水路が詰まり流水が滞れば集落はたちまち孤立の危機に直面する。
しかも山の中の水路は大量の枝や落ち葉が積もり、大雨やイノシシの掘り返しで土石も溜まっている。2kmあまりの対象水路に沿って歩きながら、まず刈り払い機で除草してからスコップや鍬、小型重機で土などを除去しないといけない。
聞いただけで気の遠くなるような作業量だが、今の小院瀬見の強みは「人海戦術」。担当のエリアを分けて草刈り、土砂上げ、廃棄などの役目も余裕を持ちながら分担して臨む。2時間半ほどたったころには、みんな終えて集合場所へ戻ってきていた。そろったら恒例の記念写真。「こいんぜみ~」の合図で撮影した画像は「弾ける」の言葉通りの笑顔でいっぱいだった。

「奇跡」の始まりは地域の助け合い
作業の最初から最後まで現場を駆けまわり、様子を確認しながら参加者に声かけする女性の姿が目を引いた。20年近く前に家族で集落へ移住してきた西井満理さん(51歳)は自治会スタッフ。「奇跡」の立役者の1人でもある。清掃が終わった水路の状況を確認し、笑顔の記念写真を見たら感極まったという。
「これなら村を維持できる。そんな希望を強く持てました」
移住したてのころは今より少しは住民が多くいた。江ざらいは町へ出た出身者も含め地元だけでこなしていたが、高齢化が進み、続けるにはぎりぎりの状態。それぞれが事前に自宅近くの草刈りを済ませておき、当日は朝から夕方暗くなるまでかかってどうにか終えた。
6年後の春先、長女が生まれた。春の江ざらいはとても参加できない。少人数でやっていたから1人でも欠けると皆の負担がぐんと増す。心配でならなくなっていたら、小院瀬見を含む近隣8集落を束ねる西太美(にしふとみ)自治振興会がユニークな組織を立ち上げた。その名も「地域おこし支援隊」。
各集落では、当時すでに過疎化で地域行事の担い手が不足して続けられないとの声が上がっていた。だったら有志を募りサポートを担おうと、振興会が動いた。小院瀬見の窮状を聞きつけた支援隊は、まだ結成式前だったが最初の活動として出動。江ざらいの日、住民と合わせた20人ほどが繰り出し、半日もせずに水路はきれいに整備された。

小さな集落が困っているなら「地域全体で助け合おう」と初代隊長は語ったとされる。「奇跡」の始まりだった。
自然栽培の米づくり体験に人が集まる
数年前、新たな人材が集落にやってきた。松本千尋さん(44歳)と國本紗季さん(34歳)。共に県外からの移住者。
小院瀬見の中央部にある2ha余りの田んぼで以前から農薬も肥料も使わない自然栽培の米づくりをしていた「なべちゃん農場」(地域25年夏62号p8参照)の渡辺吉一さん(70歳)に師事して耕作を受け継いだ。
稲作だけでなく養蜂や文化芸術活動も展開するユニット「Honey&Cotton(通称ハニコ)」を立ち上げた2人は2022年、師匠とともに自然栽培の体験教室を開催。その後も小院瀬見を舞台にした多彩なイベントを繰り広げ始めた。SNSを駆使した全国への発信力で徐々にメンバーや協力者を増やし3年前、一般社団法人化した。
さらに最初の体験教室の受講生たちが、集落内で耕作放棄地となり荒れ放題だった棚田を開墾、再生させ、米や野菜づくりを始めている。「小院瀬見くらぶ」を名乗り、現在30人ほどに膨れ上がっている。
ハニコも、小院瀬見くらぶも事あるごとに相談してきたのが堀さんであり、西井さん。その仲介で地元住民や出身者との交流も深まり、全員ではないが江ざらいには毎回参加するようになった。
外から来る人に集落を開く
何が人を惹きつけるのだろう。ハニコの協力者でもある筆者は6年前、初めて集落へ入った時に不思議な感覚に包まれた。
「いるだけで心が落ち着く。田んぼや畑、木や草など、ここの自然と一体になりたい」
農村の原風景がそうさせると言う人もいる。後で聞くと皆同じ思いに駆られたそうだ。不思議でならないので自治会に聞いてみた。
「外から来る人に小院瀬見を開き続けてきました。自分たちだけでは何もできないからみんな受け入れてきたんです」と西井さん。
ハニコたちもしかり。自由に何でもやってもらって自治会がサポートした。大学の授業やインターンとしての農業体験などにも門戸を開いた。じつは集落4世帯中3世帯は移住者。それが開放精神につながったのかもしれない。
広がり続ける助っ人の輪
22年には小院瀬見の噂を聞きつけた富山県からの依頼で「グリーンツーリズム」企画としてとやま帰農塾の移住者体験ツアーを受け入れた。評判が広がり2年後、県の「とやま農業・農村サポーター活動支援事業」に登録したサポーターたちがインターネットなどの「小院瀬見江ざらい」募集にボランティア参加で名乗りを上げてきた。以来、10人前後が継続的に駆けつけてくる。

奇跡はまだまだ終わらない。24年に県が催した山村活動支援企画で集落を訪れた、県の森づくり塾の修了生らのグループ「とやま森林サポーター三期会」の1人が、自然の中で営みを続ける集落の暮らしに関心を持ち、仲間に呼びかけて昨年から加わった。チェンソーを巧みに操る彼らは抜群の助っ人ぶりを展開する。
広がり続ける輪。一度参加するとほとんどの人がリピーターになるのも小院瀬見江ざらいの特徴だ。そんな関係者・団体と情報交換するメールアドレスのリストは西井さんの宝物だ。
「イベントがあるごとにメルアドが増え、江ざらいの翌日にはすべてにお礼を書いて送っています。車で1時間以上かけて来て、半日使って草刈りしてくれる人が何人もいるんです。お返しは何もできないけれどせめて感謝を伝えたい」
外に開いて、外から来る人とのつながりを大事にする。小院瀬見のみんなの心が未来を開いている。
むらの仕事をやりたい人がいる とやま農業・農村サポーター
南砺市・小院瀬見集落の水路掃除に10人前後のボランティアが駆け付けるという本制度。NPO法人グリーンツーリズムとやまが、県から受託して運営する。
「農村」と名がつくだけあって、江ざらいのほか、草刈り、鳥獣害防止柵の設置など、さまざまなむらの仕事を手伝う。もちろん農作業もある。
サポートを要請できるのは中山間地域にある組織。ボランティア会員は県内外に100人ほどおり、2025年は15地域・24回の作業に、のべ300人ほどが参加した。
会員登録すると活動時期や内容がメールで届くので、都合が合うものに参加する。現地集合、現地解散。参加者のボランティア保険は、運営法人が手配してくれる。
ポイント制度もあり、半日の作業につき1ポイントを貯めて県内の特産物をもらうことができる。Honey&Cottonの生ハチミツ(小院瀬見集落)など、自分が手伝った地域の産品を選べるのもうれしい。