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連載「集落機能強化加算」廃止でいいのか?

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【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑨】農水省が新規の利用意向を調査?

来年度からの第6期対策で集落機能強化加算の廃止を決めた農水省。だが11月29日の記者会見で江藤拓農相は、新たに同加算を利用して生活支援に取り組みたいと考えていた集落がどの程度あるか調査する意向を示した。

文=編集部

前回の記事に書いたように、第5期対策で集落機能強化加算を利用してきた集落協定に対しては、経過措置として来年度からも高齢者の生活支援を続ける道が開かれた。ただし集落機能強化加算自体は廃止。第6期対策で同様のことを始めたいと思っても、新規の取り組みは受け付けない方針だった。

しかし11月29日の記者会見*1で江藤農相は、生活と農業は一体のものであることを強調し、新規にこの加算に参加しようとしていた集落協定がどの程度あるか調べてみたい、と話した。

農水省では12月2日から県や市町村を通じて調査を始めているとのこと。関心のある地域は要望の声を上げてみてはどうだろう。

そもそも集落機能強化加算は、岩手・新潟・島根でとくに利用が多いなど利用が偏っていた。この加算がどんなふうに使えるか、現場に情報が十分に伝わっていなかった可能性がある。

農相の言うとおり、農家にとって営農と暮らしは一体のもの。農村あっての農業でもあり、高齢者が安心して暮らせるむらでなければ、農地も農業も維持できないだろう。高齢者支援はどこでも大きな課題だ。『季刊地域』2025年冬60号(1月6日発行)では、集落機能強化加算の活用実態を各地から紹介してもらうが、一足先にここでも2事例についてお知らせしたい。

地域協議会が3協定の加算で高齢者支援

岩手県花巻市・熊谷哲周(高松第三行政区ふるさと地域協議会事務局長)

私たちの行政区内には三つの集落協定がある。その3協定から、区内全世帯を構成員とする「高松第三行政区ふるさと地域協議会」に委託するという形で、集落機能強化加算を使って以下の事業を行なっている。

①車による外出支援
②高齢者の見守りを兼ねた配食サービス
③高齢者世帯の除雪支援
④農福連携(福祉農園の運営、サロンの支援)

集落機能強化加算は5期対策の初年度から利用してきた。安定した財源ができたことで高齢者の生活支援や農福連携の取り組みが飛躍的に充実した。その影響もあってか、地域内では「ありがとう」や「ご苦労様」という明るい声が響くようになった。新たな移住者や「孫ターン」により高齢化率(約45%)が10年ほど横ばいで推移しているのもこの間の特徴である。集落機能強化加算を活かした当地区の活動が多方面に知られることにより、住民の意識も変わってきたように思う。行政等の支援も充実し、通常は完成まで20年かかるといわれる圃場整備事業が10年でほぼ完成した。

最近とくに感じるのは、国の制度・政策が現場まで十分に届いていないということ。集落機能強化加算の情報は各地の集落協定まで伝わっていただろうか。情報共有と現状突破のための「全国中山間サミット」を開催したい。

高松第三行政区ふるさと地域協議会
設立年:2008年
構成員:67世帯
3協定:平良木集落協定(43.1ha・31世帯)
    内高松集落農地管理組合(28.0ha・21世帯)
    母衣輪集落協定管理組合(23.8ha・15世帯)
加算額:集落機能強化(3集落分) 200万円(20%減)
地域全体:67世帯・179人
*農家以外も含む全世帯が集落協定の構成員にもなっている。

注)交付額・加算額は2023年度の金額。加算額のカッコ内は、23年度の農水省の予算不足により減額された割合。

花巻市・高松第三行政区ふるさと地域協議会が運営する福祉農園では、栽培するガマズミ・ナツハゼをゼリーに加工。売り上げを協議会の運営費に充てている

地域の暮らしを守る仕組みができたのに…

島根県奥出雲町・砂田茂敏(大谷本郷集落協定代表)

集落機能強化加算は以下のような用途に使っている。

①公共施設の整備
公会堂・神社・寺跡・簡易水道堰の草刈りや歩道整備、陰切り(田んぼの日当たりを悪くしている樹木の伐採)などに利用。自然あふれる地域の環境、伝統文化の維持に役立った。
②雪下ろし活動
高齢者宅の私道、屋根の除雪を「除雪隊」をつくって対応。皆で助け合う元気な里づくりにつながった。
③コミュニティ活動
高齢者が定期的にコミュニティサロン(公会堂内)に集まり、弁当を食べながらおしゃべりしたり、保健師による健康相談等を行なう。健康づくりに役立った。高齢者以外でも、コミュニティサロンでの祭りやイベントの相談などに利用。

地域の暮らしを住民全体で守る仕組み(集落機能強化加算)を1期5年でなくすのは拙速だと思う。

大谷本郷集落協定
締結年:2000年
構成員:61人
対象地:田 57.1ha、畑 2.2ha
交付額:1321万円
加算額:棚田振興 324万円
    集落機能強化 61万円(19%減)
    生産性向上 41万円(19%減)
地域全体:63世帯・180人

農業振興には集落機能強化が欠かせない

愛知県豊田市・鈴木辰吉(しきしまの家運営協議会事務局長)

豊田市敷島地区の拠点、しきしまの家。空き家になっていた保育所の建物を利用

2023年春、「しきしまの家」がオープンした。敷島自治区では農村RMOの設立に取り組んでおり、しきしまの家は高齢者が困りごとを気軽に相談できる支え合い拠点。自治区の事務所とともにレストランが入っており、集落機能強化加算はその運営費(人件費・消耗品費)に利用している。

この拠点は地域づくりのよりどころになり、文字通り集落機能の強化に大きく貢献した。営農以外に利用できる加算の効果は絶大である。国によるこの加算が廃止されるなら、県・市に同様に使える制度の新設を強く要望したい。

中山間直接支払は、農村地域存続の命綱である。5期対策の加算措置によって「農業振興政策と農村政策の一体的推進」が具現化されたことは画期的であった。今後さらに進む人口減少・高齢化への対応として、国の方針がどうであれ、中山間直接支払の使途を集落機能強化に振り向けるしかないと考えている。

しきしま集落協定
締結年:2023年(8協定を統合)
構成員:181人
対象地:田 61.1ha、畑 5.9ha
交付額:928万円
加算額:広域化 51万円(59%減)
    集落機能強化 51万円(59%減)
    生産性向上 83万円(59%減)
地区全体:324世帯・735人


  1. *1 記者会見の概要は農水省のHPでご覧いただけます(https://www.maff.go.jp/j/press-conf/241129.html ) ↩︎
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小田切徳美 著
「にぎやかな過疎」とは「過疎地域にもかかわらず、にぎやか」という、一見矛盾した印象をもつ農山漁村のこと。14章からなる本文に加え、「農的関係人口」などの基礎用語を、著者独自の視点で解説するコラム「農村再生キーワード」を11記事収録。註には本書の背景の深掘り解説や、参考図書の紹介なども多数盛り込む。農村再生のための政策構想を論じた『農村政策の変貌』(2021年)の続編であり、コロナ後の社会と2025年基本計画以降の展開を見据え、農村の過去~現在、そして未来への展望まで総合的に見通す一冊。
佐藤洋平 監修、生源寺眞一 監修、中山間地域フォーラム 編
人口減少・高齢化をいち早く経験した中山間地域は、課題先進地であり、新しいライフスタイルとビジネスモデル提案の場である。中山間地域の歴史とデータからみた現況をおさえた上で、中山間地域における諸課題を36テーマ別に問題の所在とそれにかかわる取り組みをコンパクトにまとめる。さらにこれらのテーマに総合的に取り組む先発地域を紹介し、再生のポイントを識者や現地の実践者が提言する。本書は、類書が無いなかで、中山間地域というプリズムを通した未来社会へのガイドブックとして長く活用されることが期待される。
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