2025年11月28日、『季刊地域』の執筆陣が語るセミナー「ゆるがぬ暮らしをつくる~『季刊地域』セミナー」が開催されます。セミナーの開催を記念して、講師・水柿さんの記事をご紹介します。

執筆者:水柿 大地(岡山県美作市・NPO法人英田上山棚田団)
『季刊地域』60号(2025年冬号)「NPO法人が株主を募集!? 稲株主制度で棚田を守る」から始まった」より

執筆者:水柿 大地
稲作や棚田を自分事とする仲間を増やす「稲株主制度」の実践に携わる。
移住者が増える棚田
かつて8300枚の棚田があったといわれている岡山県美作市上山地区。NPO法人英田上山棚田団(以下「棚田団」)は、この地で過疎や高齢化によって荒廃した棚田の再生と保全、農地や空き家等の地域資源の活用に取り組んでいる。
2007年、任意団体として活動をスタートし、11年に法人化。活動初期は関西圏から通いで活動するメンバーが主だったが、現在は移住者が中心となり、地域外のメンバーや地元住民がそれを支える体制へと変化してきた。地域おこし協力隊や移住者の受け入れにも積極的に関わり、人口約140人の上山地区において、10年以降の移住者は40人を超える。民間企業や大学等の団体も棚田の保全に関わっており、外部と地域をつなぐことも棚田団の重要な役割となっている。
1口7500円で稲株主を募集
20年以降の新型コロナ禍で、上山地区でも都市住民などの受け入れに慎重になった期間が続き、都市と農村の新たな関わり方を考えることは必至となった。現地に来られなくても、自分事として棚田や稲作を感じてもらいたいと考え、「棚田オーナー制度」が議論に上がったが、他の地域から遅れて始めることになるので、何か独自性を持たせたほうが面白がって参加してもらえるのでは、と案を練った。
その結果、21年に「上山棚田の稲株主制度」の名称で募集開始。1口7500円で棚田の稲株100株保有するイネの「株主」と称してオーナーを募った。
メールやLINE公式アカウントで、イネの生育状況や棚田での活動を毎週配信。各種SNSでも棚田団の日々の動きを発信した。稲株主になることで付与される特典は、配当米や稲株主総会の議決権、稲株主優待、共同作業やイベントへの参加権の4点を設けた。
応募開始から3年経つが、NPO法人なのに「株主」を募集することを面白がって参加する方や、「株を持ってみない?」と知人を勧誘してくれる方が増加。21年度に42人・68口だった稲株主数は、24年度には124人・193口となり、大口購入する方も出てきている。
棚田団のメンバーにとっても「以前からの賛助会員(寄付会員)より、話のネタにしやすく誘いやすい」と、新たな関係づくりに前向きな効果がみられている。また、収穫後に自分たちが育てたお米が誰の手に届くのか、その顔を思い浮かべながら農作業に取り組むことが、日々の作業の原動力にもなっている。
稲株主へ送る米の量が増えることや、収穫前から売り先を確保できることは、棚田団の活動基盤の強化につながる。今後も500口まで増やしていく予定だ。
* 英田上山棚田の稲株主制度 *

[1]配当米

1口5kgを基準に棚田米を送付。
その年の収量によって量は変動し、2024年度は予想より多収したので5.5kgを配当。
[2]稲株主総会の議決権

毎年7〜8月に総会を開催。
制度の改善点やイベントへの要望、棚田や古民家の活用案を議論し反映。
[3]稲株主優待

対象の上山産品の購入、集落内の提携宿や温泉利用時に割引等の優待を受けられる。
[4]共同作業やイベントへの参加権

田植え、草取り、イネ刈り等の農作業や収穫イベントに参加して、棚田での農業や里山での暮らしを体験できる。
稲株主は地域づくりの仲間集めだ
この地域のことを一緒に考えてくれる仲間集めという点も、稲株主制度の大きな意味だ。毎年、稲株主を集めて稲株主総会を開催し、これから上山がどうなっていくとよいかを共に議論している。その結果、棚田や里山を次世代につなぐことを目指し、活動拠点の周辺に子供の遊び場をつくることが議決され、実際に整備に至った。また24年度には未活用の棚田をフィールドとして、稲株主の有志で結成した「上山棚田の野菜部」が、野菜づくりにも取り組み始めている。
棚田団のメンバーはみな兼業で、それぞれメインの稼ぎとなる事業(宿やキャンプ場の運営、特産品づくりなど)を営んでおり、稲株主はそれらを「優待」利用できる。稲株主が棚田米購入や優待利用を通じて棚田を応援することが、地域内に魅力的な場所や仕事をつくり出し、稲株主はいっそう現地に足を運びたくなる。そうした好循環が生まれていくように、今後も稲株主制度を広げていく。
中小規模の棚田の農業で、生産量に限りがある私たちだからこそ「消費者の顔が見える農業」「消費者と共に考え実践する農業」を続けたい。そのためにも、外部の方が関わりたいと思える余白を常に残しつつ、稲株主制度の募集を進めることが重要だと考えている。
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『季刊地域』の執筆陣が語るセミナー 第1回は、2025年10月23日に開催しました
第一回目の「季刊地域」セミナーでは、和歌山県に移住し、地域資源を活かしたグミの開発やキャンプ場オープンに挑戦する猪原有紀子さんを講師にお招きし、地域マーケティングについて、お話いただきました。
三兄弟の母としての暮らしと、地域ビジネスを両立する姿に注目が集まっています。
セミナー参加者の声(アンケートより)
素晴らしかったです…!営業とマーケティングの違い、マーケティングファネルのことなど、とても明確で明快に説明してくださり、とてもわかりやすく刺激的でした。やはりWebマーケティング会社での勤務経験や、グロービスで経営を学ばれた強みが、最短で結果を出せる力につながっているのだなと思いました。質問にもとても誠実に答えてくださり、共感を呼ぶことでファンを増やしていくことができる、天性のものも兼ね備えた方であると感じました。素晴らしい方を発掘(?)されましたね。(ご本人からの営業だということなので、”発掘”ではないかもしれませんが…)(広島県・Mさん)

(近日中に、アーカイブ版の配信があります)