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季刊地域Vol.60(2025冬号)試し読み

秋田

【里山・裏山林業を成功させる!】農村RMOが 「山の地域資源化」に目覚めた

農村RMO(農村型地域運営組織)にとって山はぜひ活かしたい地域資源。継続的な活動や豊かな暮らしづくりにつながる元気の源だ。秋田県三種町では森林の現状を住民らで共有。そこから新たな可能性が見えてきた。

秋田県三種町・下岩川地域づくり協議会 文=編集部

写真=信太秋桜
写真=信太秋桜

目指すのは地域資源の共同管理

 「地域資源(農地、水利施設や山)を共同管理して、利益を上げる」「地域資源を住民主体で共同管理するシステムと組織」をつくる。

 秋田県立大学の谷口吉光名誉教授がまとめた秋田県三種町下岩川地区の農村RMO(農村型地域運営組織)を紹介する資料には、こんな言葉が書かれている。

 12の集落に約400戸850人以上の住民が暮らす下岩川地区。高齢化率は現在50%を超えているが、以前から自治会活動など自主的な地域づくりが活発だ。

 2022年、この下岩川地区を対象地域として、秋田県立大学による「持続可能性診断に基づく内発的地域づくり支援システムの開発」という研究が始まった。島根県にある「持続可能な地域社会総合研究所」(持総研)と共同で行なわれたもので、人・コト・カネの動きに注目して、地域の現状を詳細に調査。その結果を持総研が持つマップやシミュレーターの制作技術を駆使して「見える化」し、地域住民に共有された。

 この研究をきっかけに、24年にできたのが農村RMO「下岩川地域づくり協議会」だ。(この経緯や活動内容については『季刊地域59号』(2024年秋号)p88でも詳しく紹介しているので、ぜひお読みください)。

 そして、冒頭にある言葉の実現が、下岩川地域づくり協議会の目標となり、実際に林業部会が山林の管理態勢づくりに動き出している。

地域の山と暮らしを守ってきた財産区

 研究で作成された次ページのマップを見るとよくわかるが、下岩川の山林の大半をスギの人工林が占めている。また、財産区が多くの山林を所有していることも大きな特徴だ。

 財産区とは財産や公の施設を持つ特別地方公共団体(法人)のこと。市町村内の一部の地域が、山林やため池、原野といった特定の財産を保有する場合に、その管理を目的として設けられる。全国には現在約4000の財産区があるという。

 下岩川の財産区の歴史は明治時代にまでさかのぼる。まだ下岩川村だった頃、共有林の管理を目的に設立され、以来長年にわたって、山林の育成と管理を担ってきた。今も600ha以上の広大な山林を財産区が管理している。

地域から選出した議会による運営

 財産区の運営は、選挙で選ばれた議員が構成する議会で決められ、下岩川には6人の議員がいる。財産区は山林の管理計画をつくり、間伐などの実際の施業は森林組合や林業会社に委託している。

 財産区で得られた収益は地域のために使われ、個人への還元はしない。下岩川では、大きく生長した木を選んで間伐し、搬出・販売する収入間伐を5年計画で進めており、年間500万~1000万円の収益を地域の小学校の環境整備などに活用してきた。財産区とは文字通り、地域の財産として山を活かす制度といえるだろう。

 財産区による管理態勢は市町村合併があっても変わらない。明治以降の合併を経て、三種町となった今も、下岩川財産区の山林はこの地域のために活かされ続けている。

所有権バラバラの「組山」を整理

図はどちらも秋田県立大学、持続可能な地域づくり研究所
樹種

 現在、農村RMO下岩川地域づくり協議会では、山からの収益を活かした地域振興の実績を持つ財産区と連携しながら、山林を次の世代へと引き継ぐ態勢づくりを進めようとしている。

 財産区議員でもあり、農村RMOの副会長も務める赤川秀悦さん(70歳)に話を聞くと、さっそく、取り掛かっていることがあると教えてくれた。

赤川秀悦さん。山の活用だけでなく、ブランド米づくりや赤ササゲの栽培などにも積極的に参加している写真=編集部
赤川秀悦さん。山の活用だけでなく、ブランド米づくりや赤ササゲの栽培などにも積極的に参加している写真=編集部

 それは、この地域で「組山」と呼ばれている山林の権利関係の整備だ。組山はかつて、財産区から各自治会へ売り渡された山林で、推定で200haほどあるという。その際に自治会の組ごとに処分が進められ、住民一人一人に所有権が分配されたそうだ。

 「だから、それぞれの持ち分が100分の6、100分の9……といった状況になってしまっているんです」と赤川さん。これでは財産区が持つ山と違って地域資源として活用できない。間伐などを計画しても全員の合意を得る必要があるうえ、相続する人が地域外に出てしまうと、この状況はいっそう複雑化する。

 そこで下岩川が進めているのが、自治会(集落)単位での認可地縁団体(*)の設立だ。赤川さんによれば、12の自治会のうち、すでに三つは認可され、さらに二つも申請中だという。

 なお、認可地縁団体の設立は、地域に不在の住民がいた場合でも、一定期間告知して異議がなければ認可が得られるそうだ。法人格を取得し、山林の登記を法人にし直すことで、複雑な個々人の持ち分の問題は解消。今後の継承もラクになる。

 「ただし、山林の登記などに費用がかかります。山林の筆数によっても変わるのですが、1自治会あたり30万円ほどを見込んでいます」という赤川さん。

 その費用に農村RMOの補助事業を充てることも考えたが、それは認められなかった。代わりに財産区の収益から捻出することに決めた。費用のめどもついたので、今後はまだ申請していない自治会でも話し合いや検討を進める予定だ。

*「認可地縁団体」になることで法人格を得られ、団体名義での不動産登記が可能になる

下岩川地域づくり協議会 組織図
下岩川地域づくり協議会 組織図

コモンズとしての山を取り戻す

 財産区が中心となって共同管理の形で守られてきた下岩川地区の山を、谷口名誉教授は「コモンズ」(社会的共通資本)と言い換えられると言う。そして、農村RMOでの話し合いを通じて、赤川さんはじめ財産区の議員らも、活用が難しくなっていた組山をコモンズにしていくことは自分たちがまさにやりたかったことだ、と動き始めたのだ。

 今年、隣接する能代市に大手の製材会社が新工場を建設した。そのため、木材需要はさらに高まる可能性がある。下岩川地域づくり協議会が掲げる最終的な目標は、新しい仕事をつくって移住者を増やし、人口減少に歯止めをかけることだ。目標実現のためにも、コモンズとして山をどう活かせるかが、ますます重要な課題となっている。

『季刊地域』2025年冬号(No.60) 農」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • ・稲株主制度で棚田を守る
  • ・自給家族を全国に広めたい
  • ・地域計画を絵に描いた餅にしないために
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