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連載集落川谷もよりのビジョンづくり試し読み季刊地域Vol.60(2025冬号)

新潟

地域ビジョンとともによくなった10年 そしてこれからも! | 川谷もよりのビジョンづくり⑤

2025年11月28日、『季刊地域』の執筆陣が語るセミナー「ゆるがぬ暮らしをつくる~『季刊地域』セミナー」が開催されます。セミナーの開催を記念して、講師・鴫谷さんの記事をご紹介します。

川谷もよりの住民。最後列の左から5人目が筆者(2024年夏に撮影)

一人ひとりの10年後の夢を語るところからつくり上げた、川谷もよりの将来ビジョン「百笑百年物語」は、策定から10年になりました。
最終回は運営体制と10年の成果についてです。

執筆者:鴫谷 幸彦(新潟県上越市・たましぎ農園)

『季刊地域』2025年冬号(No.60)掲載「地域ビジョンとともによくなった10年 そしてこれからも!」より

執筆者:鴫谷 幸彦

新潟県上越市の農家。農地を維持しながら新規就農者を育てる「川谷もより農地中間管理チーム」の実践に携わる。

活動資金は「棚田加算」と「サポートクラブ」から

 まずは将来ビジョンに基づき活動していくための資金について。そもそもこの将来ビジョンは、農水省の「農村集落活性化支援事業」(2015〜19年)を起点としています。集落間のネットワーク化を通じて集落機能を維持、活性化しようという5年限りの補助金でした。すでにその2年前にもより会が誕生していて、4集落の協力関係はできていたこともあり、すんなりと活用できました。

 20年からは、棚田地域振興法の制定に基づき中山間地域等直接支払交付金の新メニューとして「棚田地域振興活動加算」が登場。軌道に乗り始めた活動を継続するための資金繰りを考えていた私たちには渡りに船でした。

 いっぽうで、補助金に頼らない財源として15年からスタートしたのが、「川谷もよりサポートクラブ」です。年5000円の会費をもより会に払うと、そのうち3500円程度(送料込み)の返礼品として、川谷もよりの産品が届くという仕組みです。ふるさと納税のように税金の控除などはありませんので、地域に対する純粋な支援の気持ちだけで成り立っている仕組みです。春のもより通信に案内を同封していて、毎年50人近い方に入会いただき、大きな力となっています。

事務員の雇用で負担減、地域内の仕事をもより会に一本化

 農村集落活性化支援事業を使い15年から事務員を雇用しました。事務員の鈴木珠美さんの実家は川谷もより地域にあり、車で30分離れた平場に嫁いだ方です。それまで勤めていた地元の有線放送が解散となり、絶好のタイミングと猛烈スカウト! 地域は「お帰り」という気持ちで大歓迎。川谷小学校校歌を口ずさみつつふるさとに通勤する日々が始まりました。今は「川谷店」(簡易郵便局+小さな商店)に勤めながら、もより会や集落協定(中山間直接支払)の事務を請け負っています。それまで事務仕事は住民の誰かがやらざるを得ず、自分の生業を後回しに事務をこなす負担が課題でしたので、これは大きな改革でした。

 最初の5年は、役員、事務局メンバー、地域おこし協力隊員が集まり、毎週ミーティングを開いていました。内容は事業の進捗状況や、協力隊活動の確認など。とくに協力隊とのコミュニケーションの場として重要でした。地域内にあったさまざまな仕事(公民館活動や行事ごとの実行委員会)をもより会に徐々に一本化したので、バラバラに行なわれていた会議も、このミーティングの中でまとめてできるようになりました。今は負担を減らすために隔週としています。

川谷もよりの事務担当・鈴木珠美さん。川谷店の前で

小さい農家を育てる「農地中間管理チーム」

 新しい住民が増えたことで生まれた新たな動きもあります。連載第2回で触れた「川谷もより農地中間管理チーム」もその一つ。農家のリタイアで浮いた農地を、新たな担い手に渡すまで一時的に管理を引き受ける組織です。

 構成員はU・Iターンの若手移住者と地域おこし協力隊員。農機は、集落協定で共同のトラクタ、田植え機、コンバイン、草刈り機、動力散布機、乗用溝切り機などを整備しました。前耕作者からは田んぼの癖や水利を指導してもらいます。実際の米づくりを通して当地の農業技術を学び、やがて独立就農する時に、知り尽くした農地を選ぶことができます。リタイア等によって浮いた農地と研修を終えた新規就農者とのマッチングにタイムラグが生ずるのは当然です。そのラグを埋めて、農地を未来へ引き継ぐことが第一の目的ですが、若者の交流の場でもあり、移住者が移住者を呼ぶ好循環にも期待しています。

 この春にはチーム1期生の宇野拓朗さん(元地域おこし協力隊)が、チームが管理した農地3haのうち2.2haを引き受けて独立します。残りは80aと思っていたら、24年のチームの様子を見ていて、任せてもいいと思ったのか1.2haほどが新たに加わりました。今後の宇野さんは、自分の経営をしながらチームの仕事も約2haで請け負い、後輩を育てることが大切な任務です。自分の経営と別にすることで、独自の農業経営という自己実現をしながら、その余力で地域の農地を維持するというスタンスを明確にしました。

 川谷もより農地中間管理チームは、従来の営農組織と違い、農地をひたすら引き受けていくのではなく、あくまで地域内に小さい農家を永続的に育て増やしていくことを主目的にしています。

宇野拓朗さん(左)が前耕作者から田んぼの引き継ぎを受ける様子

ビジョンとともに歩んできた10年

 10年のうちに住民構成がずいぶん変わりました。移住者も元々の住民も、ふとした不安や不満が心に湧くものです。そういう声が聞こえてくるたびにした作業は、将来ビジョンの基本理念に立ち返ることでした。「100年先も笑って暮らせる村づくり」がしたい。そのために「新たな住民を迎えていこう」というあの日の決意を思い出す作業です。常に将来ビジョンに沿って解釈することで、新しい挑戦でも住民の合意が取れやすく、不安や不満を解消しながら歩んで来られた気がします。

 さて10年が経ち、川谷もよりはどうなったでしょうか。残念ながら人口減少はさらに進んだというのが現実です。ともに夢を語り合った住民が何人か亡くなり、任期途中で退任した協力隊員もいました。増える以上に減るほうが多いのです。

 でも大丈夫。「思っていたようには人は集まらんねえ」と話しながらみんな笑顔です。確実によくなってきているという実感があるからでしょう。この10年で比較すると、戸数で3戸減り、人口で4人減りましたが、年齢構成を見るとすべての世代が埋まり、30〜50代がずいぶん増えました。協力隊だけでなく、Uターン、孫ターン、2拠点居住など多様な形態で新しい住民が増えてきたからです。

 果たして100年先に100人の村になっているか、それは誰もわかりません。ハッキリしていることは、10年前に将来ビジョンをつくらなかったら、今ほどよくなってはいなかっただろうということです。

 次の10年に向けて、将来ビジョンの見直しをしようという声が上がってきました。10年前を知る住民に新たな住民も加わり、また夢を語るところから……。どんなビジョンができるのか、わくわくします!

 先日、わが家の裏に住む曽根敏子さんが、「原木に寒冷紗をかけたらキクラゲがたくさんとれた!」と嬉しそうに教えてくれました。彼女はいくつになっても「実験中」で、一昨年はわが家との間にイチジクの木を植えました。

 川谷もよりの住民は、普通の暮らしの延長にある、身の丈に合った夢を持つのが上手な人たちなのかもしれません。みんなの夢から紡いだ将来ビジョンが、素朴なのに輝いているのも納得できます。ひょっとしたら、農家は誰でも小さな夢を持つ名人なのかもしれません。だとしたら、どんな小さな農村であろうと、きっと素敵な将来ビジョンができるはずです。

 それでは100年先に向けてまた一日、小さな夢を心にたくさん育てながら歩き出そうと思います。

10年前につくった地域ビジョン「川谷もより百笑百年物語」の表紙

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『季刊地域』の執筆陣が語るセミナー 第1回は、2025年10月23日に開催しました

第一回目の「季刊地域」セミナーでは、和歌山県に移住し、地域資源を活かしたグミの開発やキャンプ場オープンに挑戦する猪原有紀子さんを講師にお招きし、地域マーケティングについて、お話いただきました。
三兄弟の母としての暮らしと、地域ビジネスを両立する姿に注目が集まっています。

セミナー参加者の声(アンケートより)

素晴らしかったです…!営業とマーケティングの違い、マーケティングファネルのことなど、とても明確で明快に説明してくださり、とてもわかりやすく刺激的でした。やはりWebマーケティング会社での勤務経験や、グロービスで経営を学ばれた強みが、最短で結果を出せる力につながっているのだなと思いました。質問にもとても誠実に答えてくださり、共感を呼ぶことでファンを増やしていくことができる、天性のものも兼ね備えた方であると感じました。素晴らしい方を発掘(?)されましたね。(ご本人からの営業だということなので、”発掘”ではないかもしれませんが…)(広島県・Mさん)
地方で挑戦するあなたへ 地域マーケティング入門 (猪原有紀子さん)~『季刊地域』セミナー#1
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(近日中に、アーカイブ版の配信があります)

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