
遊休農地の解消に向けて粗放的な農地利用が広がっている。ポイントは手のかからない品目選びと商品化のアイデア。22年春号「どうする?使い切れない農地 part2」で好評だった品目ガイドから3本ピックアップして紹介する。
執筆者:中林正太(佐賀県嬉野市・春日活性化委員会)
『季刊地域』2022年春号(No.49)掲載「放棄茶園は宝の山、油を搾る」より
土産品を開発したかった
嬉野《うれしの》市で生まれ育ち、2013年、27歳の時から介護事業を経営しています。知人から「旧吉田小学校春日分校」が閉鎖されたと聞いたのは15年のことです。市街地から車で15分の山間にある分校で、01年に統廃合後は地区住民が管理していたのですが、高齢化でそれも難しくなったとのこと。地区の人口は100人ほどです。
140年以上も続いた歴史ある木造校舎や、周辺の自然、春日地区に住む人々の暮らしを次の世代へつなげたいと思った私は、同年、「春日活性化委員会」という任意団体を立ち上げ、分校を拠点とした地域おこし活動を始めました。市外に住むメンバーも含め、現在は30人で活動しています。

分校を人が集う小さな拠点にするために、まず着手したのは飲食(カフェ)事業です。「こんな山の中にお客さんは来てくれるのだろうか」と思うこともありましたが、定期的にイベントを開催したり、SNSを活用することで、日に日に客足が増えていきました。
地域のものから土産となる商品をつくれないか。そう考えていた時に出合ったのが茶の実油です。
嬉野は九州三大銘茶の一つに数えられる茶の産地ですが、昨年の生産量はピーク時の半分の1000tほどに減り、耕作放棄される茶園が増えています。
茶は放棄されると実がつくのですが、嬉野では緑門という会社が実の油を搾り、スキンオイルなどを開発していました(19年春37号p102)。しかし、詳しく話を伺えば、茶の実油は1g100円と高価で、それを仕入れて土産品にするには原価が高すぎて、商品開発は断念しました。
自分たちで搾油、石鹸に
分校ではカフェに加え、月1回、地区の高齢者に声をかけ、食事をしながら話をする交流会の開催を進めました。住民のみなさんはとても協力的で、料理教室や旅行会にまで発展し、地区の女性を主体とした「むかし美人の会」が発足。地域のイベントに出店し、郷土料理をふるまうようになりました。
住民とのコミュニケーションが深まる日々でしたが、どうしても気になっていたのは放棄茶園です。茶畑の新しい活用法を改めて考え「やはり実だ!」と思い至りました。一度断念した時と違って、むかし美人の会をはじめ、住民と一緒に作業できるようになっています。茶の実は住民に集めてもらい、委員会が1kg600円で買い取ることにしました。
19年冬には地区の放棄茶園80aを整備し、茶の実専用畑としました。併せて、分校の裏にあった倉庫を改修し、搾油所を整備しました。搾油機は加圧力が50tのもの((株)サン精機)を導入。「自発の地域創生プロジェクト」という県の支援事業を活用しました。

茶の実は、20年が乾燥重量で50kg、21年が100kg集まりました。その1割が油で、搾油後は残留農薬検査に出します。
搾った油は茶の実油の美容効果を活かし、石鹸に加工することにしました。化粧品として販売するには薬事法をクリアする必要があるため、製造は専門業者に委託します。1個95g(茶の実油2%入り)で、1200円ほどの予定。今春から販売します。
また、油をボトリングして販売できるよう「食用油脂製造業」の許可も取得しました。嬉野は温泉街なので、マッサージオイルとしての需要も見込めます。

枝が高さ3mくらいなら引っ張って収穫できますが、5m以上となると困難なので刈り払い機などで切り戻します。ただ、腰の高さで切ると2年間実がならないこともわかりました。そこで今後は、実を収穫する畑を年ごとにローテーションできる態勢を築き、より多くの放棄茶園を活用できればと考えています。
『季刊地域』2022年春号の「農地の粗放的な利用 品目と使い方」コーナーには、全19品目についての記事が掲載されています。ぜひ本誌または「ルーラル電子図書館」でご覧ください。

