
不機嫌な時代に、川谷もよりの先輩農家たちはなぜよく笑うのか。鴫谷さんはその理由について、さらに考えを進めます。
執筆者:鴫谷 幸彦(新潟県上越市・たましぎ農園)
この秋、全国で公開が始まったドキュメンタリー映画『百姓、わらう。』。49歳以下の農家7組を長期取材した作品で、僕ら家族やこの村のみんなも登場する。
柴田昌平監督の映像の力は前作『百姓の百の声』でも圧倒的だった。加えてこの4年で積み重ねた膨大な取材から、どんなメッセージが生まれたのか、観るのがすごく楽しみだ。
この不思議なタイトルが気になる人は多いかもしれない。パンフレットには「この不機嫌な時代に、彼らはなぜ笑うのか?」とも。監督の意図はわからないが、この表現、この村で暮らしているとよくわかる。

苦しくても「百姓、わらう」
9月の長雨のせいでイネ刈りが進まない。我が家は10月に入ってもまだ半分残っている。平野部でもイネがべったり倒れ、田んぼはぬかるみ、機械が詰まり、泥仕合が繰り広げられていた。故郷の千葉県では台風被害で、収穫前のイネや機械が水に浸かったとニュースで知った。いっぽう米余りで「安くなって助かる」という消費者の喜びの声もニュースで繰り返された。まったく不機嫌な時代だ。
そんな秋でも、村の先輩農家たちは意外と明るい。
「雨ばっか降ってダメど!」と言いながら笑顔。
「田んぼはやっこい(柔らかい)し、イネがのめって、はあ、どうにもならん」と大爆笑。大変な年ほど、苦労話をネタに盛り上がる傾向がもともとある。苦しくても「百姓、わらう」のだ。
2年前までずっと低迷していた米価が急上昇し、これで農家のリタイアに歯止めがかかるかと期待したが、僕のいる村でも1人、また1人と米づくりをやめてしまった。いっぽう今年のように米価が急落しても、やめるという農家は(今のところ)いない。米価とリタイアは必ずしも相関関係にないことに気がついた。
けっして今年のような米価でいいと言いたいのではない。農業を続けるという力や動機は、もっと別のところから生まれていることを知ってほしいのだ。その点をしっかり共有しておかないと、これからも農家は減り続け、農村も農業も崩壊してしまう。
米をつくることは村を守ること
先輩農家の笑顔の奥には、「苦しい状況でも現役で農業をしている」誇りや喜びを強く感じる。移住の先輩・天明さん曰く「お米をつくることは市民権を得るようなもの」。
この村には不便な農地のほうが多いけれど、みんなで田んぼを手分けし農業をすることで景観が保たれている。村の景観はツーリングで訪れたバイク乗りやアマチュアカメラマンのためにあるのではない。景観が崩れるということは、地域の力が弱り、村が荒れることの現れ。獣害が増え、災害が増え、いよいよ暮らしが成り立たなくなることを意味する。だから農業をやめないで米づくりを続けているうちは「村を守っている」実感がある。
体が動くうちは続け、やめるときに必ず「すまない」と言うのは、きっとそんな感覚からではないだろうか。そしてみんなが苦しい時ほどその感覚はいっそう強くなるように思う。
若い移住者チームも
先輩農家たちの思いは、若い農家にも確実に伝わっている。
3年前に発足した「農地中間管理チーム」は、若い移住者を中心にした耕作チームだ。リタイアした農家に代わり、農地を維持しながら農業技術を学ぶ場である。先輩方のように経験はないのでけっこう失敗もする。機械を壊したり、草だらけにしたり。今年は雨に打たれてひどく倒伏させてしまった。
メンバーはそれぞれ自分の田んぼもあるし、兼業農家は別に仕事もある。そんな中でちょっとずつ時間と手間を出し合いながら協力してきた。あまり手伝えず「申し分けない」という人。一人責任を抱え込み過ぎて悩みを深めた人。いつも明るく元気づけてくれる人。みんながお互いを気遣い、いいチームだなと思う。
なんとか今年のイネ刈りが終わった。いろいろ大変だっただけに、終わってみると嬉しさは大きくなっていた。
地域力のもとは力を合わせられる仲間
農家にはもともと、作物をよく観察し自然相手に工夫しながら生き抜く力がある。『現代農業』で「農家力」と呼んできた力だ。この村の先輩農家や若い農家にも農家力を感じることができる。
でもその農家力を発揮し続けるためには、やはり地域力が必要だと思うのだ。しかも地域力は農家がたくさんいるほどいい。苦しい時でも笑いながら力を合わせられる仲間がたくさんいるほどいいのだ。今までの農政のように、大規模化ばかり推し進めて、担い手を絞り込み過ぎては、本当の持続性はない。村がなくなり地域力が消えれば、農家はやっていけないと思うからだ。
イネ刈りが進まず必死な感じが出まくっている僕を、先輩方が笑顔で引き留める。
「おーい、スイカ喰わんかね」
(えっとー、イネ刈り中なんだけどなー)と困惑したが、もう笑うしかない。
農業を通じ、苦しみも喜びも分かち合おうとするこの村が僕は大好きだ。
そんな村の地域力を、映画『百姓、わらう。』でも、きっと感じてもらえるはず。
お近くで上映される際には、ぜひご覧ください。
地域力を探す旅
- #1 カズコさんの泥つきジャガイモ
- #2 普請はむらで暮らす入り口、むらを引き継ぐ場
- #3 田んぼの「手間」の中にある地域力
- #4 川谷もよりの「とちゃ」と「かちゃ」はなぜ元気?
- #5 米価安でも長雨でも「百姓、わらう」わけ

執筆者:鴫谷 幸彦(しぎたに・さちひこ)
1977年千葉県柏市生まれ。青年海外協力隊、出版社(農文協)勤務を経て、2012年に新潟県上越市吉川区の川谷もより地区で就農。水田2.2ha、畑80aの経営。『季刊地域』24年冬56号~25年冬60号で「川谷もよりのビジョンづくり」を連載。26年4月発売の65号には、筆者が講師を務めた「季刊地域セミナー」(25年11月28日開催)の様子を収録。
*本連載は、季刊地域WEBにて2カ月に1回掲載予定です。
