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季刊地域Vol.56 (2024冬号)試し読み

岐阜

【むらの暮らしに欠かせない消防団スピリッツ 】白川町消防団が「 シン・操法 」を考案したわけ

地域防災の要として、日々の暮らしを守り続ける消防団。担い手不足が課題となっているが、むらを思うそのスピリッツを継承する工夫が始まっている。

後藤茂巳( 岐阜県 白川町消防団副団長) イラスト=ワシオエレナ

「操法大会をやめます」 

 山中剛彦団長のこの言葉から白川町消防団の改革は始まりました。

かつての村ごとに5分団、さまざまな災害に対応

 皆さん、こんにちは。白川町消防団で副団長を務めております後藤茂巳と申します。消防団関係者なら「操法」という言葉は必ず一度は耳にしており、その言葉に抱く感情は人それぞれ、多岐にわたることと思います。白川町消防団は2022年から、それまで50年間以上続けてきた操法大会の開催を中止すると決めました。なぜ我々は操法大会をやめたのか、そして消防団としてこれからどこに向かおうとしているのか、お話ししたいと思います。

操法(消防操法)とは … 消防用の機械・器具の取り扱いと操作のこと。消防庁が定めた『消防操法の基準』があり、具体的には消防用器具、消防ポンプ、はしご自動車について書かれている。たとえばポンプの取り扱いでは、4人1チームで、各人に指揮やホースの展張と結合、筒先の操作などの役割があり、放水から収納まで一連の動作も細かく定められている。消防団はこの内容に沿って、実際の災害現場で、迅速かつ安全に消火活動が進むよう訓練している。また、持ち運び可能な小型ポンプの操法と、消防ポンプ自動車の操法について、それぞれの早さや確実さなどを競い合う「操法大会」が全国規模で開催されている。

 岐阜県白川町は1955年頃に五つの村が合併してできた町で、約238km2と広大な面積を有していますが、その約87%は山林です。合併当時の人口は1万8000人を上回っていましたが、現在は7200人ほどです。白川茶や東濃ヒノキなどの名産品があります。

  56年にすべての合併が終わり、白川町が現在の形となると翌57年に「白川町消防団」が発足。当時は分団数14 、団員数670人を有しましたが、その後は統合などが進み、現在は5分団、定数400人に対し358人の団員で構成されています。

 現在の5分団は合併前の五つの村をそれぞれ担当区域として防災に励んでいます。林野火災が多く(原因は野焼きが大半)年間で3~8件程度発生していましたが、近年は注意喚起が功を奏し1件もない年もあります。かわって自然災害に対する出動が増えており、大雨時には、土のう積みから交通・避難誘導など多岐にわたる対応を行なっています。また、行方不明者の捜索活動や、地域のお祭りなどのイベント時(特に花火大会)などに警護の要請があれば協力しています。

 町内には東消防署があり、消防署員が常駐し、関係車両も配備されていますが、白川町の面積は広く、火災が発生した際、場所によっては到着まで30分以上かかる場合もあります。そのため、地元で活動できる消防団員の有無が初期消火のカギを握っていますが、町民の減少に加えて、働き方の多様化による町外勤務者も増えてきており、日中は消防団員が空白の地域もあります。

 以上の現状を踏まえ、一般住民も含めて防災に取り組む必要があり、団員には住民を指導する(例えば消火栓の使い方など)スキルも求められています。

アンケートから見えた団員の本音とシン・操法の考案

 過去には白川町消防団も操法訓練に熱心に取り組んでおり、毎年5月末に開催する町大会、それを勝ち上がれば6月後半の加茂郡大会に向けて2カ月弱の練習を繰り返していました。

 しかし、岐阜県が21年に行なった消防団へのアンケートで、回答者の70%以上が操法訓練の仕方、拘束時間などに負担と不満を抱えていると答え、団員の本音の部分が垣間見えました。その一方で、「消防団は必要か?」との問いには「必要不可欠である」40%、「どちらかというと必要である」45%、との結果も出ており、白川町消防団を今後も存続していくためには「操法訓練」のあり方を見直し、団員の負担を減らして少しでも長く続けていただく必要がある、と結論付けました。

 その後、山中団長自ら、県庁や他県の操法訓練をやめた自治体の消防団を視察に行くなど精力的に活動し、また、行政とも何度も話し合った結果、競技大会としての操法訓練を中止することが決定しました。

 しかし、消防団としては、操法訓練はポンプ取り扱いの基礎を学ぶツールとして非常によいものであるととらえており、競技大会はやめるものの操法訓練自体をやめては団員のスキル低下ひいては火災現場において団員を危険にさらすと考えました。そこで、操法の中の基本動作を参考にしつつ、極力団員に負担をかけない、白川町独自の新たな放水操作基本訓練として、「シン・操法」を考案しました。

負担軽減も地域の防災力維持も目指す

「操法のスペシャリストをつくるのではなく、消火のゼネラリストを増やす」が、シン・操法の狙いです。

 旧来の操法では、可搬ポンプを操作する場合、4人で一つの火点(出火している場所)に放水します。シン・操法では、これを2人と補助員で行なうとしました。団員減少を鑑み、火災現場でも極力少ない人数で水が出せる構成にする必要があったからです。

 また、巻いてある消防用ホースを長くつなげる展張作業も、従来は3本展張するとされていましたが2本に減らしました。これにより、団員が走る距離を短くし、身体的負担を軽減するとともに、練習のたびに何度もホースを巻き取る使役(訓練そのもの以外の作業)の負担も軽くしました。さらに、ホースを2本に減らすことで、たいていの体育館で、シン・操法で規定した展張の距離をとれるようになり、雨の日でも練習が可能になる(放水はできませんが)ため、練習日の日程変更が減って団員のスケジュール的な負担も軽くなりました。

 その他にも、全体に関わる指導方針として、気を付けの姿勢などの規律よりも、ホースの結合が確実にできるかといった安全な作業技術の獲得を重視しました。訓練に必要とする日数も従来より2週間以上短縮し、最長で5日間に変更しましたが、競技性をなくし、体の負担を減らせたため、反復回数は増え、多くの団員が訓練に関わることができています。

 実際、競技として操法訓練を行なっていた頃は、毎年選ばれた団員のみ訓練していたため、可搬ポンプの取り扱いについては最大で24人しか操作に関わっていませんでした。しかし、シン・操法では、5日間の訓練で61人の団員が関わることができ、消火のゼネラリストを増やすという狙いも達成できていると思われます。

 シン・操法の訓練に参加した団員から感想などを聞いてみると「競技ではなくなったので楽しくできた」「ホースがしっかり結合できているかなどの訓練中の安全確認で、経験者が指導にあたる余裕が増え、訓練期間中1人のけが人も出さなかった」「初めて訓練に参加する団員でも、ちゃんと水が出せるようになると自信がつく訓練だった」と好評価をいただきました。

改革を続け、町の暮らしを守り抜く

 白川町消防団は、このシン・操法に限らず様々な改革を行なっております。大きなテーマとして各分団の訓練方法などの統一、また将来に向けた分団の統一計画の策定などです。

 合併前の村単位で構成された各分団は、一つの消防団として60年以上経った今でも、それぞれの文化を受け継いでおり、たとえば同じ訓練でも分団ごとに微妙に内容が異なっておりました。その状態のまま、この先もしも団員減少による再編成が行なわれたら、組織運営の大きな壁になることが想定されます。そこで、通常の訓練を非常に細かい部分までマニュアル化しました。このマニュアルは、シン・操法のマニュアルも含め、町のホームページですべて公開し、団員はもちろん誰もがいつでも閲覧できるようにしております。

 また、各分団に任せていた年間訓練スケジュールも、本部主導で時期や内容を示すことで、団員の予定を立てやすくし、家庭や仕事との両立への負担を減らしています。

 住民数が減っているという現実を考えれば、いかに訓練などの負担を軽減しても、新たな団員が増え、加入が定数に達する見込みは薄いと思われます。しかし、我々の目的は、在籍している団員の負担を軽減し、5年で辞めるつもりだったが6年目もやってもいいか、という意識になれば改革は成功と思っています。それは、ひょっとしたら白川町消防団の「伝統ある60年」を壊すことでもあるかもしれません。それでも、白川町消防団を存続させることが町民の安全・安心につながることだと信じて、今後も消防団活動に取り組みたいと思います。

防災」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

  • ・移住者の私と地元をつないでくれた消防団
  • ・もっと知りたい消防団
  • ・バイク隊「REM」誕生
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農文協 編
手づくり防災術とは、国や公共のインフラ(公助)に頼りすぎず、自給の力(自助)や地域の力(共助)で自然災害に備える工夫のこと。自然に逆らうのではなく、自然の力を生かしたり、回復させたりしながら災害を小さくする知恵や技が農村にはある。オフグリッドソーラーやロケットコンロによる小さいエネルギー自給や、スコップと草刈り鎌を使い空気と水の流れを回復させる「大地の再生」、水田の貯水機能を活かした「田んぼダム」、早期避難のための手づくり防災マップなど、土砂災害や豪雨災害、地震から地域を守る40のアイデアを収録。
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