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季刊地域Vol.56 (2024冬号)試し読み

栃木

【ナタ一本でできる里山林業】生け花グループの枝物狩りツアーを実況レポート

自生する植物を活かした「里山林業」を提唱する津布久隆さん。枝物を求めて山を巡り歩く体験ツアーを企画したところ大好評。木を切って売るだけじゃない、新しい山の活かし方が見えてきた。

栃木県・津布久隆さんと広山流栃木支部のみなさん 文= 編集部  写真= 曽田英介

ここは花材の宝庫

枝物狩りツアーに参加する広山流栃木支部のみなさん(左から刑部東美さん、鈴木洋子さん、田岡真樹子さん、藤﨑尚子さん、植木有希子さん)と案内役の津布久隆さん

 心地いい風が吹く秋晴れの10月下旬、栃木県塩谷町の山々も少しずつ色づき始めてきた。
午前8時、生け花教室・ 広山流栃木支部の女性5人が集まった。

 ガイド役を務める津布久隆さん(63歳)を先頭に、ぞろぞろ列になって山に入っていく。林内にはなだらかな道がついており、木漏れ日が差し込むと気持ちがいい。ワイワイ会話も弾む。

 歩き始めて5分、女性たちの足が止まった。

「これコウヤボウキじゃない?」
「あっ、この白い花はきっとそうですね」
「自然のままの生え方がわかっていいわね。生けたらおもしろいわよ」

 そう言うと、支部長兼師範の藤﨑 尚子さんは剪定バサミで枝をチョキンと切って水揚げ促進剤に切り口を浸し、水の入ったバケツに素早く入れた。せっかく採取しても、うまく水を吸い上げてくれずに萎れてしまっては花材にならないので、水揚げの作業が肝心なのだそうだ。

 津布久さん曰く「コウヤボウキはつまものとしても人気がありますね。岐阜県の業者は1kg2000円で買い取ってくれるので、林床の明るいところにタネを播いて今後増やそうと考えています」

 次に目に留まったのは、ミツデカエデの木。「この枝ぶりは風情があっていい。このままドーンと大胆に生けてみたい」と 刑部東美さん。要望があれば太い枝や高いところにある枝は、津布久さんがナタで切り落としてくれる。

 花材になるのは、枝物だけではない。ノイバラの実、枯れたツツジの葉、黄葉したコアジサイ(シバアジサイ)、アキノキリンソウなど、津布久さんが気づかないところにもお宝がある。

「きゃー、見て、見て。センブリの花発見!」

道端に咲いた白い小さな花を見つけた植木有希子さん。根つきで採取すれば萎れにくいので、その日のうちに生けるなら花材として使えるのだそうだ。

「私たちからしたら、ここはお宝の山ですよ。何時間いたって飽きません。毎月でも山に行きたいくらい」

興奮が冷めやらぬまま、1時間余りの枝物ツアーでバケツ4個分の花材が集まった。

里山林業家、津布久さん

 里山の雑木林は、 60年ほど前まで薪や炭などの活用で適度に更新されていた。しかし、燃料の需要がなくなったことから放置され、草木が伸び放題の山が増えている。

 里山の美しい景観を取り戻すには除伐や下草刈り、つる切りなどが必要だが、手間や経費がかかる一方で、なかなか実施されることはない。でも、切り取った枝や刈り払った草、邪魔者のつるが、おカネに換わるとしたらどうだろうか。

 元栃木県環境森林部参事の津布久隆さんは、里山に自生するお宝広葉樹や植物をおカネにすることを「里山林業」と呼ぶ。生育を邪魔する植物を取り除くなど少し手を加えながら、勝手に生えてくる植物の「切られても育つ力」をおカネにするのが里山林業の醍醐味。生け花や装飾用の花材として、枝物(切り枝)なら力仕事が苦手な高齢者でも簡単に始められる。

「花卉市場で取り引きされている枝物は、農地で栽培されているものがほとんどですが、山に自然に育つ植物だって天然の花材になる。採取といっても、特別な道具や技術が必要なわけではなく、ナタが1本あれば誰だってできる超お手軽林業ですよ。ワハハッ」

 津布久さんは、知り合いの不動産会社から管理を任された山の一部で里山林業を実践し、4年目になる。まだまだ量は少ないが、週に1度、関東の花卉市場に出荷して小遣い程度稼げるようになってきたので、週末山に行くのが楽しくてたまらないそうだ。

現在、広山流栃木支部の会員は11人。大田原市や那須塩原市の50~70代の女性が中心だが、最近、春や秋の展示会を見て20~30代の会員が2人増えた

生け花教室に枝物を直接販売

 生け花教室・広山流栃木支部とのおつき合いは2022年から。春と秋に数回、旬の枝物を納品している。さらに、教室の希望者を募り、津布久さんが枝物を採取している山を案内する「枝物狩りツアー」を企画。毎回5、6人が集まり、今回が4回目となる。

 広山流の生け花教室との出会いは、メンバーの鈴木 洋子さんに津布久さんが管理する里山を見せてほしいと頼まれたのがきっかけだった。鈴木さんは津布久さんの大学時代の同級生。もともと自然の草花が大好きだった鈴木さんは、野山や庭の草を自由に生けるという広山流のスタイルが気に入り、小学校教員を定年退職した4年前から教室に通っている。

 花屋から仕入れる花材は、季節によって定番ものに限られており、枝物は種類も少ないのでみんな似たような作品になってしまう。自然のなかに育つ個性的な花材でもっと自由に生けてみたいと考えた鈴木さん。同級生の津布久さんが里山の手入れをしているという話を聞き、 40年ぶりに連絡をとった。

 以前、親戚のスギ山を見に行ったときは、シダ類やショウジョウバカマばかりで花材に使えそうなものは見つからなかったそうだ。ところが、津布久さんの山ではリョウブやクロモジ、大きなホオノキの葉など、魅力的な花材をたくさん見つけて感動したという。そこから、生け花教室への枝物の納品が始まり、 22年秋から枝物狩りツアーにつながった。

枝物の地産地消はメリット大

 枝物狩りツアーの参加費は、1時間で1人500円。さらに前日採取した生け花教室の納品分の枝物が、バケツ6個分で7000~8000円。合わせると、津布久さんの稼ぎは1万円ほどになる。

 仮に、生け花教室でこれくらいの枝物を花屋から仕入れるとなると3倍以上の価格になる。一方、津布久さんも関東の花卉市場に出荷すれば、販売手数料や輸送費などで、売り上げの半分が経費としてとられる。枝物の地産地消は、お互いにメリットのある関係になっている。

 秋の枝物狩りツアーでは、ガマズミやウメモドキ、ムラサキシキブなど「実もの」が人気だが、春のツアーはエゴノキやコゴメウツギの花、ハナモモなど「花もの」が喜ばれる。

 津布久さんにとっては「こんな枝でも商品になる」と再認識する場になっているそうだ。以前は、花卉市場に売れなかったムラサキシキブやエゴノキなどが人気なこともわかり、手入れの際に除去する植物も変わってきている。

「今のところ確実に不要なのはイヌザンショウやヌルデ、ヤマウルシあたりかな。あとは、夏に林道の草刈りを数回。冬はクリスマス用のつるを収穫しながら、歩くときに邪魔な植物を取り除くようにしています」

生け花教室に納品する枝物。ガマズミ、ムラサキシキブ、ウリカエデ、フジバカマ、コゴメウツギなどバケツ6個分、ツアーとは別の山で採取した

自由に里山を生ける

 さて枝物採取が終わったら、次は車で40分ほど離れた大田原市の「ギャラリー 米喜」に移動し、植物が元気なうちに生けて作品にする。

 一つの花瓶に生ける花材は4~6種類。普段の教室では、自宅の庭に咲く草花を持ち寄ったり、近所の花屋から季節の花を仕入れたりしているが、枝物狩りツアーがあるときは山採りの枝物が主役になる。

 さっきまであんなにワイワイにぎやかだったのが、生け込みが始まると空気が一変、真剣な表情で、黙々と作品を仕上げていく。

 一般に、生け花といえば教本があったり、師範の見本花があったりするものだが、型にとらわれず自由に生けるのが広山流。二股の枝を豪快に生ける人や、あえて枯れた葉を使って自然を表現する人など、それぞれの里山のイメージを表現していく。

「山採りの枝物は、里山の力強い生命力を感じるので、お花屋さんの花材とは調和しにくい。
それよりは庭の草花を合わせたほうが落ち着くわよ」と藤﨑先生がアドバイス。

 その後、1時間ほどで次々に作品が完成していく。刑部さんは、ホオノキの枯れ葉、ウメモドキ、ヤマブドウ、ノイバラとすべて山採りの花材で豪快にまとめた。鈴木さんは、山で見つけたノイバラの実とガマズミの枝葉、そこに自宅の畑のキクイモの花を合わせた。山採りの花材の自然な感じを活かすためにつるかごの花瓶を選んだ植木さんの作品は、ヤマブドウのつるとセンブリの花がよいアクセントになっている。

「野の花に着目した3代目の家元は『花は足でかせぐ(自分で採取するのが基本)』と言っていましたが、自分たちで花材を集めるようになって、あらためて植物の本来の姿や山の四季の美しさに気づかされます」と藤﨑先生。

里山の一部分を切り取ったような藤﨑先生の作品。花材は、ヤマツツジ、コウヤボウキ、ホトトギス、ウリカエデ

小さい林業が止まらない!」のコーナーには以下の記事も掲載されています。ぜひ本誌(紙・電子書籍版)でご覧ください。

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