第三者委員会の反対意見によって、第5期対策の最終評価の修正案が取りまとめに至らないという異例の事態となった中山間地域等直接支払制度。2025年度から第6期対策が始まっているが、第5期対策第三者委員会を務めた有志4人が声明文を発表した。
文=編集部
問題となった集落機能強化加算廃止の意向は2024年8月に公表された25年度予算の概算要求で突然明らかになった。それに対する第三者委員会の抗議の内容は、連載の⑧や⑪で取り上げてきた。
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- 【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑦】「第三者委員会」が開催要望書を提出
- 【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑧】紛糾した第11回第三者委員会
- 【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑨】農水省が新規の利用意向を調査?
- 【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑩】各方面から憤りの声
- 【「集落機能強化加算」廃止でいいのか?⑪(最終回)】必見! 第12回第三者委員会議事録
今回、声明文を発表したのは、第三者委員会の委員長を務めた図司直也氏(法政大学教授)、飯國芳明氏(高知大学名誉教授)、榊田みどり氏(農政ジャーナリスト)、橋口卓也氏(明治大学教授)の4人。第5期対策の第三者委員の過半数が、農水省の委員会運営の問題点などを指摘し、積み残された論点について第6期対策の第三者委員会で継続審議することを要望した。
第5期最終評価の公表内容の訂正
声明文の「1.第5期最終評価の公表内容(ホームページ上)の訂正」では、委員の意見がまとまらず、最終評価は確定に至っていない状況だが、農水省のホームページでは、加算廃止の意向を知る前の24年8月に承認した最終評価案が確定したものとして扱われ、掲載されている点を指摘。早期の訂正を求めている。
第5期における第三者委員会の運営と議論に関する問題
「2.第5期における第三者委員会の運営と議論に関する問題」では、唐突な加算廃止の意向について、その経過説明を求める第三者委員会の要望に対し、具体的な説明がなされなかったこと。さらに、それまでの加算措置への評価が一転して否定的評価が提示されたことなど、政策決定プロセスの透明性に対する問題が提起されている。
また、今回積み残された論点として、本制度で中山間地域の生活支援と農業生産維持をどのように位置づけるかという議論の必要性を挙げ、第6期対策の第三者委員会での継続審議を求めている。
本制度における第三者委員会の目的と役割
「3.本制度における第三者委員会の目的と役割」では、第5期対策の委員会運営で生じた問題をふまえ、委員会の目的と役割を確認して第6期対策では適切な議論が進められることを求めている。
4人は6月16日に会見を開き、声明文に込めた考えや思いを語った。
「本来議論すべきことが議論できなかったので、それらが第6期対策に引き継がれることを求めたい」(図司氏)
「サイト上では8月の最終評価案と委員へのアンケート結果だけが表示されている。どんな議論があり、どこが問題だったのか、第6期対策の議論につながらないのではないか」(飯國氏)
「第三者委員会の評価とは別に廃止が決定された。8月以降に加算措置への評価が一転した点が問題だし、他の加算と比べて公正な評価といえない。また、それらの批判に対して農水省からの回答が得られなかった点も問題で、第6期対策での改善の必要があると思う」(橋口氏)
「今回の廃止措置の背景には、生活支援や集落機能強化を中山間地域等直接支払制度でどう考えていくかという本質的な問題も含まれている」(榊田氏)
それぞれに問題点の指摘や次期対策への危惧を口にした。
この連載で、第5期対策で集落機能強化加算を活用した地域づくりの事例を紹介してきた。農水省の政策決定が、その成果や意義を十分に理解したうえでのものだったか、やはり疑問を感じる。
今回の声明文には、集落機能強化加算と農村RMOとの関連や、交付金の制約が以前より厳しくなり、集落機能維持活動に活用しづらくなっている問題、第6期対策の目玉とされる「ネットワーク化」を推進するうえで現場への十分な配慮と実態把握の必要性など、積み残しとなった論点も具体的に挙げられている。それらがどのように引き継がれ検討されていくかをこれからも注視していきたい。
また、制度設計にむけた本質的な議論が尽くされるためにも、今回の委員会運営でみられた政策決定のプロセスにおける問題が、第6期対策で改善されることを望みたい。