「宛名を書いてくれんか。手が震えて書けんのじゃ」
来店したおじいちゃんの年賀状の宛名を「僕、こんな字しか書けないけどいい?」と、その場で10枚程度書いてあげたのが最初かな、と佐藤友則店長。
15年前に父親から山間地の書店を任されて以来、地域の方から様々な頼みごとをされるようになった。
つい先日も、風呂敷に包まれたパソコンが持ち込まれた。印刷ボタンを何度も押して動かなくなっていたり、インクが切れて印刷できないだけだったり、簡単な操作で直せるが高齢者にとっては難しいこともある。
世話好きの佐藤店長の評判は広まり、「ラジカセを直してほしい」「手書きの文章をパソコンに落としてほしい」から、同窓会の名簿や行事に使う横断幕の作成、一度は家系図までつくったこともある。「ここは、なんでもしてくれるって聞いたんじゃがー」とやってくるおじいちゃんたちに大笑いする日常だ。
お礼に高級な肉を持ってきたり、3000円を包んで「受け取ってくれないと困る」と言われるようになったので、ちょっとしたことは500円(ワンコイン)で請け負うことにした。お客がコピー機の使い方で困っていたら手伝うし、赤ちゃんを抱っこしたお母さんが本を選んでいたら代わりに抱っこする。子ども連れのお客が本を選んでいる間は、佐藤店長が手品で子どもの遊び相手になってあげる。
「夕方4時頃は店の外には出られませんよ。学校帰りの子どもたちに囲まれて、手品してって言われて動けなくなるんです」
佐藤店長がそんな気配りも心がけるのは、これだけ便利になっている世の中、お客が求めるものに応えるには本の品揃えだけじゃなく、他の何かが必要だと考えているから。
「本屋ほどあらゆるお客に来てもらえる小売りはない。これからの時代、地域のコミュニティの核になる、町になくてはならない場所として評価される書店を目指したい」と佐藤店長。
レジ脇につくった相談スペースは今日も活躍中だ。
ウィー東城店
〒729-5121
広島県庄原市東城町川東1348-1
電話08477-2-1188
文=農文協中国四国支部 原田順子