俺ある俳優に似てるって言われるんだけどわかる? 前田吟だよ! または林隆三(笑)」

 初対面での黒木さんの自己紹介。明るく、ユーモアたっぷりな社長というのが第一印象だ。ここは山間部の小さな書店なので店売だけでは厳しく、代々売り上げの9割を学校や個人客へ出向く営業で稼いできた。東京外語大を卒業後、旭化成でバリバリの営業マンをしていた経験もあり、人と話す商売が大好きなのだ。

 お得意さんは、農家や肥料店、料亭など多種多様。祖父の代からの付き合いで職人なども多い。なかでも黒木さんは学校の同級生や先輩・後輩など、地元のつながりを大事にしてきた。

「黒木さんから本の情報を直接聞けるので
勉強になる」と竹細工職人の西田さん。
訪問販売を楽しみにしているひとりだ

 今回、社長に同行して訪問した竹細工職人の西田さんは、中学時代の柔道の先生。「今はプラスチック製品が主流で竹細工はなかなか売れんでね」という相談に、「なら、竹をチップやパウダーにして肥料にする手もあるよね? 竹内さん」と、さり気なく私に振ってくれるので、こちらも竹活用の本をスッと紹介できる。「いやぁ、こういう実践情報は助かるな」とさっそく注文してくれた。

 2軒目の「くらし工房・木楽」は、家具工房兼喫茶店。二ツ木社長は小中学校の後輩だ。開口一番「この社長イケメンでしょ」と笑いを取りながらも、二ツ木社長が岐阜県まで木材を買い付けに行った話を思い出した黒木さん。「竹内さん、『季刊地域』(本誌)で山の特集してたよね」と、再び絶妙なパスを出してくれた。

 ところで、いま黒木さんが力を入れるのが、郷土ゆかりのマイナーな偉人を集めたチラシづくり。営業で学校を回った際に新任の先生たちに配布している。

 日本封建制研究の根本史料・「入来文書」を発見した歴史学者の朝河貫一や胎児性水俣病を立証した原田正純など、「誰もが知っているような著名人ではないけど、ここに住むなら覚えておいてほしい人を集めた。こうした偉人と地域との縁を子どもたちにも伝えてほしい」と黒木さん。ゆくゆくは学校の先生たちとマイナー偉人の冊子をつくれればと夢はふくらむ。

黒木書店
〒895-1803
鹿児島県薩摩郡さつま町宮之城屋地1528
電話0996-53-0218

文=農文協九州・沖縄支部 竹内謙太郎

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