このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。webではその中のむら・まち元気便から“ちょっとだけ”公開します。

学年全員で内山節さんの本を読破
哲学するヨコハマの女子高生たち

編集部


講演を前に開いた「読書会」。
内山さんの本を読んで生まれた関心から、
政治、経済、個人、自由、自然、コミュニティ、
技術のグループに分かれて討論

神奈川から
 哲学者の内山節さんといえば、修験道に共感し、大学のゼミ生に滝行をさせたほど。その内山さんがミッションスクールの横浜雙葉高等学校で講演するという。洋館建ち並ぶ横浜・山手の丘にあるカトリック系名門女子高だ。
 1、2年の生徒約360人を前にした内山さんの講演テーマは「共に生きる世界の創造に向けて」。人口約1300人の上野村の暮らしと都会の暮らしを対比。村では木質バイオマス発電など森を現代的に活かす「伝統回帰」を進めている。そこに人々が生涯幸せに暮らし、自然と文化が結び合う世界を創造する可能性があると語った。果たして生徒の反応は……。
 次々に質問の手があがる。「安倍首相の、東京の本社機能を地方に移転させる地方創生策は、伝統回帰の考え方と矛盾するか」「SNSは人のつながりを生み出すか」「日本とフランスの宗教観の違いはどこから生まれたか」……。
 それもそのはず、この日を前に1年生179人全員が内山さんの著書『主権はどこにあるか』(農文協)を読破。グループ討論を行ない、質問の中身を練り上げてきたのだ。講演当日の質問はそのごく一部だった。
 講演後、ある生徒は「(受験のためだけでなく)考えるために知識をつけたい。…(都会で)バラバラに孤立化している私たちはどのようにしたらまとまることができるか、それを考えるヒントをいただいた」と感想文に記した。哲学とは答えを出せない問いを追究し続けること、という講演のもう一つのメッセージを、生徒たちはしっかりと受け止めたようだ。

雨が降っても心配無用!
コンバイン倉庫が盆踊り会場に

高橋明裕


晴れたときは、コンバイン倉庫の前に
やぐらを組んでみんなで踊る

北海道から
 北見市豊北地区(34戸)は、2003年に2つの自治会が合併。途絶えていた地区の盆踊りが十数年ぶりに復活しました。
 以来、毎年8月14日になると、夏休みで帰省した地元出身者や親戚、知人など、総勢180人以上が集まりワイワイ盛り上がります。
「最近は孫まで連れてくる人が増えてきたので、実行委員会の若い衆が水ヨーヨーやかき氷の屋台を出したり、花火を打ち上げたり、みんな張り切っていますよ」と、自治会長の柴山秀明さん(66歳)。
 盆踊りの会場は、なんと!地区のコンバイン組合のでっかい倉庫(約500㎡)。以前は旧小学校のグラウンドを使っていましたが、開催日を固定しているので毎年天気が心配で、当日に雨が降って苦労したこともありました。そこで7年前、組合のコンバイン倉庫を新築する際に「せっかくだから盆踊りの会場にも使えるようにしよう」と、少し広めの設計にしました。
 普段は、大型コンバイン3台やトラクタ2台、自走式モアなど、組合のさまざまな農業機械を置いていますが、盆踊りの日は雨でも晴れでもすべて外に出します。たとえ雨が降ったとしても、中にやぐらを組んで盆踊りができるし、ブルーシートを敷いたり、椅子やテーブルを並べて心置きなく宴会もできます。この飲み会が楽しみで帰って来る人も多くなりました。
 毎回盛り上がるのがくじ引き大会。地元出身の電器店がテレビや扇風機、小型冷蔵庫などを寄贈してくれるので、景品がかなり豪華です。踊った人にのみ抽選券が配られるので、大人も子供もみんな踊りに参加するそうです。

㈱兵庫大地の会(衣笠愛之)
☎090‐8930‐8124

電力もドブロクも電動カートも…
7世帯の元気集落、自給圏構想

樋口維史


水車は土台からみんなでつくった

岩手から
 遠野市街地から沿岸部へ行く途中にある7世帯21人、平均年齢70歳の遠野市米通集落。昔からむらのことも家のことも共同作業で行なうまとまりのある集落です。長らく「限界集落」と呼ばれてきましたが、自治会長の佐々木正さんの呼びかけで、4年前からエネルギー自給を中心に、さまざまな活動を展開しています。
・小水力発電
 1964年まで集落内にあった水車で発電、電力を自分たちで賄っていたことから、水車での小水力発電を計画。2012年に落差10mの水路に水車を手づくりした。得られる電力15Aは水車から1番近い農家宅で使用
・太陽光発電
 公民館の近くに小型のパネルを6枚設置。電力は公民館の冷蔵庫やカラオケなどに使う
 昨年は、作業小屋「ほたるの家」も建設。50㎞ほどの距離にある沿岸の被災地ではちょうど仮設住宅の取り壊しが少しずつ始まっていたので、その廃材も利用。ほたるの家は「爺の工房」として、父ちゃんたちがシカの角や骨を利用したクラフトづくりをする予定です。いっぽう「婆の工房」(加工所)も建設。遠野市はドブロク特区に指定されていることから、米通産のドブロクをつくって売り出そうと計画中です。
 さらに、佐々木さんは電動カートまで自給したいと話します。電動カートは完成品を買うと20万円ほどしますが、部品だけ買って自分で組み立てれば半額以下でできるそうなのです。
 エネルギーだけでなく酒、乗り物まで、米通集落の自給圏構想はアツい!

仕入れに頼らない大型直売所
売り上げの6割を農家が売る

水野研介


「ぽんぽこ」店内。生産者が野菜を持ち込むたびに従業員が
「○○さんの野菜が到着しました!」と宣伝している

群馬から
 館林市にあるJA邑楽館林の農産物直売所「ぽんぽこ」。売り上げは2008年のオープン以来ずっと右肩上がりで、14年度はなんと9億3000万円。出荷する生産者も400人弱と、管内一の大型直売所です。12年から2代目店長を務める松島寿明さんに店舗づくりの秘訣を聞きました。
「どこの直売所にも負けないのは出荷者比率の高さです」。出荷者比率というのは、販売実績のうち、業者商品や仕入れを含まない、生産者の売り上げの比率。ぽんぽこほどの大型直売所になると、一般的には業者と仕入れ商品と生産者の売り上げが3分の1ずつくらいの割合になるそうですが、「うちは生産者だけで57%です!」と松島さんは胸を張ります。オープン時は36%だったので、そこからずっと右肩上がりだそうです。
 ぽんぽこでは、生産者のやる気を引き出すためにも、一日に4回、11時、13時、15時、16時に生産者のケータイに売上状況のメールが入るようになっています。さらに「野菜が少ないからもう一回持ってきてくれ」と店長や従業員から直接電話が入ることも頻繁にあります。店の営業は18時までですが、16時でも17時でも「品物が足らなくなる」と感じればすぐ電話。最初は半信半疑だった生産者も、店長や従業員が一生懸命売っているのを見ているせいか、「しょうがねぇな」と言いながら持ってきてくれるようになりました。
 そうした努力で、午後も充実した品ぞろえを実現。お客さんも午前中だけでなく終日来るようになり、売り上げが伸びていったそうです。

JA邑楽館林「ぽんぽこ」 http://www.ponpoko.jp/
☎0276‐70‐7788

全農が野菜を買い取り
地元スーパーとつくる小さい流通

向井道彦


JA芸南のトマト

広島から
 JA全農ひろしまでは、2008年度から農産物の買い取り事業を始めました。単協を通じて買い取った農産物の売り先は、県内のスーパーに設けた全農のインショップ「ひろしま菜’s」や、広島市に本社を置く㈱イズミの量販店など、県内50店舗以上に広がっています。
 このしくみを活かして元気になっているのは、呉市や東広島市の一部を管内とするJA芸南のトマト部会。7人ほどの小さな部会ですが、やる気は満々です。農協や全農の担当者と、出荷方法や規格、買い取り価格を相談して決め、2015年度から出荷を始めました。
 出荷量は売れ行きやトマトの生育に合わせて、130gサイズのパックを毎回100〜300ほど。面積の大きさに応じて、部会員に割り振ります。あとは各自決められた出荷日(シーズン中の月・水・金曜日)に、JAの営農センターに運ぶだけ。そこから先は農協や全農におまかせです。「買い取り」なので、価格が決まっていて安心ですし、直売所のように返品もありません。手取りも直売所に出すのと同じか、少しいいくらい。初年度は全体で3.4t(約3万9000パック)を出荷し、260万円の売り上げになりました。
 今年は昨年評判のよかった品種「ピンキー」に統一し、「芸南のミニトマト・ピンキー」をブランドにしようと計画しています。
 全農は、トマトのほかに、キャベツやトウモロコシ、キヌサヤなどの品目も同様のしくみで地元スーパーに販売。今後少しずつ他の品目にも広げていこうと考えているそうです。

JA全農ひろしま直販課
☎082‐831‐1131

町独自の農村体験制度「地遊人」
15年で24人が定住

柳島かなた

ジャガイモの収穫体験をする地遊人(左の女性2人)

北海道から
 地域おこし協力隊よりもずっと前からオホーツク地方・置戸町では、地域外の若者に1年間、月7万円を支給しながら農村体験をしてもらう制度を続けてきました。その名も「地遊人」制度。100日の農業体験と地区や町の行事への参加が条件ですが、残りをどう過ごすかは文字通り自由(地遊)。1991年から始めて、これまでに78人が利用、24人が今も町に残っています。この制度の狙いのひとつは、町民が協力して若者を受け入れることで地域に団結力を生み、元気を取り戻すこと。そのため、とことん町民に主体的になってもらうのが特徴です。
「地遊人」を受け入れているのは中心部をのぞく農村地帯の3地区で、地区ごとにある受け入れ組織が地遊人のお世話を全面的に担います。役場の担当者とは月1回組織の代表者と全地区の地遊人が集まるミーティングや町の行事で関わる程度。農業体験もいろんな農家に行くので、自然と顔を覚え地域に溶け込んでいくそうです。
 また、農家は地遊人のバイト代を町に納めます。そのお金は町でプールして、生活費7万円の一部にあてています。住宅は地区内にある元教員住宅などを町が用意しますが、最低限の家具や生活用品の調達は受け入れ組織も協力。各家で使っていないものなどを集めてそろえたりするそうです。
 町に残る地遊人のうち21人は女性で、町の男性と結婚した人がほとんど。みんな町じゅうに人脈があり、置戸に詳しい人たちばかり。こういう女性たちが将来町を支えていくのでしょう。
*地遊人制度は2015年度で終了。今後は地域おこし協力隊として受け入れを続ける

置戸町中央公民館
☎0157‐52‐3075
http://www.centralforest.jp

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