家業を継いだ39年前、取次の配本の偏りに困惑したという小林さん。漫画や小説など売れ筋本は小さい書店には配本がほとんどない。
 転機は39年前、料理の企画本の説明会に参加したことが発想の転換になった。「欲しい本が配本されないなら予約注文を取ればいい。確実に本が入るし、取次にも店の名前を覚えてもらえる」と考えた。さっそく配達先でこの企画本の説明をして回ったところ、その日のうちに4人が注文。その後も一生懸命説明して回り、発売前に40冊の予約を確保することができた。
 小さい店は常連客で成り立っていることを痛感した小林さんは、以来、予約取りで売り上げを伸ばしつつ、自分で読んで面白いと感じた本を積極的に仕入れて常連客に勧めることで「店独自のベストセラー」をつくってきた。

1952年開業。「常連客がメインの店、通りすがりでも本屋だとわかるから」と、軒先改修の際に店名を外した

 1年半前から力を入れているのは隔月開催の「ビブリオバトル」だ。これは、何人かの発表者(バトラー)がオススメの本を紹介し、参加者がその中で一番読みたくなった本に投票して「チャンプ本」を決める書評合戦のこと。最近は図書館や公民館などで開催するところも多いが、「書店でやるのがミソ」と小林さん。読みたい衝動に駆られているときに販売や注文取りができるし、ビブリオで常連客になる可能性もある。
 店内のビブリオバトルには、毎回20人以上が参加。「旅」や「夢」など、事前に店が指定するテーマの本を持ち寄り、5、6人の発表者が、持ち時間5分でオススメ本の魅力を語る。実際に読んで惚れ込んだ本だからこそ迫力があるプレゼンで、思わずその本が読みたくなる。そうしてまた1冊、店独自の売れ筋本が生まれる。

小林書店は「傘を売る本屋」としても有名。1995年の阪神淡路大震災後、店の修繕費を稼ぐために傘の行商を始め、多い時はイベントで1日に560本売った

小林書店
〒661-0025 兵庫県尼崎市立花町2-3-17
☎06-6429-1180
営業時間10:00〜19:00(年始以外無休)

文=農文協東海北陸近畿支部 野村収平

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