このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。webではその中のむら・まち元気便から“ちょっとだけ”公開します。

繁殖農家の増頭を応援 黒毛和牛オーナー制度

荒井康介


草原の黒いダイヤ応援プロジェクトのパンフレット

大分から
 子牛価格は5年前の約2倍と高値で推移していますが、高齢農家が離農していく一方、繁殖素牛も高騰しており、増頭が進まないのが現状です。
 竹田市は2018年4月、若手農家らの増頭を支援しようと「黒毛和牛オーナー制度」を始めました。素牛(メス)の購入費を一般の方に出資してもらい、その牛を農家が育成し、産んだ子牛を販売してオーナーに還元する、という仕組みです。増頭を考える農家とオーナーになりたい人を、市の畜産振興室が仲介します。
 出資額は80万円前後。5年後、3頭出荷した時点で出資金が戻るとともに、オーナーに約25万円の利益が出る見込みです。以後は所有権が農家に移り、子牛販売代金は農家が得ます。
 市は「相場の変動がありうるため、利益だけを求めると難しい場合もある」と説明。そのリスクを踏まえたうえで「畜産農家を応援したい」と、出資を希望する人がすでに2人いるそうです。
 じつはこの制度、「草原の黒いダイヤ応援プロジェクト」の第2弾。16年5月からの第1弾は、一口20万円のサポーターとして牛農家を応援してもらうというものです。登録者には久住高原牛のサーロインやカボス、シイタケなど特産品を3年間にわたり贈ります。こちらは29人がサポーターになったそうです。

鶴ヶ島をサフランの産地に 球根を貸し付け

佐藤孝史


サフランの雌しべをとる

埼玉から

 パエリアなどの香辛料や薬用に使われるサフランですが、かつて鶴ヶ島市近辺の農家はクワの木の下や庭先に植え、乾燥させた雌しべを生理痛や冷え性改善の薬として使っていたそうです。
「新しい特産を」と考えた市の産業振興課では、5年ほど前からサフランの振興に取り組んできました。最初はサフランの大産地、大分県竹田市から球根を買い、賛同する農家に3000個ずつを目安に貸し付けました。農家はそれを畑に12月に植え、5月に掘り上げ、風通しのいい場所で保管。9月、芽が出てくると暗所に移します。11月、暗いなかで花が咲くので、雌しべを摘み取って乾燥させ、直売所等で販売します。
 分球によって増殖した球根は市に返し、市はそれを他の農家に貸し出すという仕組みなので、農家は元手をほとんどかけずにサフラン栽培を始められます。
 また、サフランは虫や病気もつきにくく、草が生えにくい冬に栽培するので除草も不要。軽いので高齢者にもつくりやすい作目です。現在19戸の農家が参加しているそうです。
 収穫作業や認知度向上のためのイベントを手伝ってくれる「鶴ヶ島サフラン市民サポーターズ」も99人にまで増えました。近くにある女子栄養大学と一緒にサフランコロッケを開発するなど、産官学民の連携も進んでいます。

地域の拠り所、温泉館がある楽しみ

荒井康介


宮城温泉・出会いの湯

大分から
 稲葉川上流にある竹田市宮城地区。1991年に計画され2010年に完成した稲葉ダムにより過疎化が進みましたが、現在も400戸700人が暮らしています。
 02年、ダム建設のためのボーリング調査が行なわれると、思わぬ副産物が得られました。温泉が湧出したのです。
「温泉館をつくろう!」。自治会長会議でそう決まると、住民約200戸で「宮城温泉管理組合」を設立。総額約800万円の寄付を集めました。行政からの補助約1200万円も使って03年、「宮城温泉・出会いの湯」ができました。
 施設の清掃や管理は役員が交代で行ない、館内にある時計や装飾品などの多くは住民の寄付です。また、入浴ついでに缶詰や菓子、洗剤など日用品を買うことができる売店もあります。
 住民主体の支え合い組織「暮らしのサポートセンター」では週3日、移動手段がない高齢者を温泉に送迎する「よりあい温泉」を始めました。車は市からリースを受け、運転は「暮らサポ」メンバーのうち5人が交代で行ないます。利用者は1日約20人にもなり、100歳の常連さんもいたそうです。地区の小学校の児童(全校で13人)がここで合唱を披露することも。
「歩くのもやっとの高齢者が、温泉に入って人と会うと、跳びはねるように帰っていくんですよ」と管理役の菅恵次さんは笑います。

寺の名物の彫刻が観光客を呼ぶ、
住民もつなぐ

吉田祐貴


創作民話に聞き入る観光客

新潟から
 魚沼市大浦地区の西福寺開山堂というお寺には、「日本のミケランジェロ」と呼ばれた彫刻家、石川雲蝶の彫刻、絵画、漆喰細工などが所狭しと飾られています。その作品を見ようと、週末を中心に400〜500人の観光客が日本全国からやってきます。
 雲蝶生誕200年を迎えた2014年、地域住民の有志約30人で「大浦雲蝶会」という会を立ち上げ、観光客のガイドなどの活動を始めました。また、雲蝶談議に花を咲かせてもらおうと、お寺の斜め向かいの空き家をみんなで改修し、休憩所(まちの駅)「雲蝶の郷」をつくりました。
 雪解けから次の降雪までの毎週日曜日、雲蝶会のメンバーが2人ずつ交代で店番をし、囲炉裏端で観光客をおもてなし。雲蝶と当時の西福寺住職・大龍和尚との出会いを語る創作民話や、紙芝居「石川雲蝶物語」を上演します。
 またここでは、地場産の野菜や山菜、ザルや木工品などを直売しています。売り上げの10%を雲蝶会に入れることになっており、この収入の年間約10万円と市の公民館分館助成金などを活用して会を運営しています。
 月1回、住民が集まる「大浦の茶の間」では、認知症予防の指体操をしたり、手打ちそばを食べたりして楽しみます。観光客だけでなく住民が集まる場にもなっているのです。

虫食いの材を家具に
森林再生に若手事業者が動く

川瀬菜摘


市長室に納めたあかね材のテーブル

和歌山から
 木材価格の低下や林業事業者の減少により、田辺市でも枝打ちされず枯れ枝が残ったスギやヒノキが増えてきました。それらの木がスギノアカネトラカミキリの食害に見舞われています。枯れ枝の中に成虫が産卵。孵化した幼虫は枝の中を掘り進み、幹の樹皮に近い部分を食べてしまうのです。
 被害の拡大を防ぐには食害木を切らねばなりません。しかし食害木からつくった材は、強度や品質は問題ないものの、穴が開いて見た目が悪く、「あかね材」と呼ばれていっそう安い価格でしか売れないそうです。そのため伐採も進まず、悪循環が起きています。
 あかね材を一定の価格で売ることで伐採と森林再生を進めようと、2016年、市内の林業者、製材所、木工所、家具店、デザイナーなどの若手事業者が集まり、プロジェクトチームを結成。食害痕をデザインとして活かした家具づくりに取り組みました。
 食害痕に詰まった木くずを取り除き、穴を灰色のパテで埋め、スギのあかね材のテーブルがついに完成。第1号は市長室に納めました。その後、民間の事業所にも納品しています。
 チームのリーダー、㈲榎本家具店の榎本将明さんは、「うちではこれまで、田辺産の木を使った家具の取り扱いはゼロでした。地元の木をもっと活用し、山に興味を持ってもらえたら」と話します。

直売所に食育ソムリエとライブカメラ

小森智貴


食育ソムリエによる食育イベント

愛知から
 JAあいち中央の直売所「でんまぁと安城西部」には、エンジ色のエプロンをつけた「食育ソムリエ」が常時4〜5人、計11人います。
 食育ソムリエとは、野菜や果物など食材の選び方、調理・保存法、栄養成分などについて消費者にアドバイスできる知識をもつ人。半年間の講習で農と食の幅広い分野を学び、認定を受けた人が名乗ることができる資格です。JAあいち中央は直売所スタッフに食育ソムリエの資格取得をすすめ、現在は12店舗ある直売所すべてに、有資格者50人超を配置しています。
 でんまぁと安城西部の店頭では、食育ソムリエが地元野菜を料理し、試食カウンターで提供します。出荷にやって来た農家をお客さんに紹介することもあるといいます。月1回、テーマを変えて食育イベントも開催しています。食育ソムリエの一人、永谷直美さんは、「サトイモを煮るときは揚げを一緒に入れると吹きこぼれない」など、農家から聞いた話をお客さんに伝えるのが楽しいとのこと。
 また、この店には今年2月から、インターネットで誰でも見られるライブカメラが5台設置されています。お客さんは今買える品物がわかり、農家も「イチゴが少なくなったから持っていこう」と売れ具合にすぐ対応できると好評。カメラの映像を見ながら農作業をするという人もいるそうです。

圧巻、全長200mのそうめん流し

編集部


巨大そうめん流し

新潟から
 100世帯弱が暮らす村上市大毎集落では、毎年7月に「おおごと名水まつり」が開催される。大正時代から住民が湧水を引き込んで管理する「吉祥清水」にちなんだ祭りだ。北限のお茶、村上茶を味わえる茶会や、農産物の直売市が開かれ、約500人が訪れる。
 この祭りで10年ほど前から名物になっているのが、高低差のある集落の地形を活かした巨大そうめん流し。家々の間を通る坂道を、竹の樋が200mにわたって連なり、びっしりと並んだ観光客らが箸を伸ばす。途中にある曲がり角でも、そうめんは滞りなく、こぼれることもなく流れていく。
 準備は、消防団など数十人が3日がかりで行なう。近隣の集落でまっすぐな太い竹を切らせてもらい、割って節を抜き、樋をつくる。それを角材を組んだ台の上にセット。祭りの前日は、曲がり角でもうまく流れるように、元大工さんたちが腕を振るう。
 当日は60〜70人の地元スタッフがそうめんを茹でて流したり、つゆや薬味のネギを補充して回る。そうめんはスタート地点だけでなく途中からも投入し、すべての人に行き渡るようにしているという。
 樋からそうめんを取るのは赤い印のついた箸、食べるのは無地の箸と分け、衛生面も気を遣う。
 集落のお母さんたちの話しかけながらのおもてなしに、観光客は感激して帰っていくそうだ。

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