このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。

ヤギが集落ににぎわいを連れてきた

文箭 誠


ホウキづくり

富山から
 獣害対策として耕作放棄地などに牛を放牧する「カウベルト」。富山県では15年ほど前に始まりました。当時、獣害や傾斜がきつい棚田の除草に困っていた魚津市小菅沼集落では、牛ではなくヤギを放してみることにしました。これが金森喜保さん(75歳)が代表を務める「小菅沼・ヤギの杜」の始まり。2008年のことです。
 当初は、警戒した野生動物が寄り付かなくなるなど活躍したヤギたちですが、困ったことに今ではサルが食べ残したカキのおこぼれに預かるほどサルと仲良しになったとか。獣害対策に効果抜群というわけではないですが、人懐っこいヤギたちは小菅沼のアイドルとして有名になりました。県内外から観光客や写真家、子供が来てにぎわいが生まれています。
 ヤギの杜では、このにぎわいを維持・発展させようと古代米を使った田んぼアートのほか、間伐材や孟宗竹での炭焼き、獣害の少ないニンニクやウコン、キクイモ、ルバーブ、ハーブなどを栽培し加工品もつくって販売しています。
 16年からは、「コキアの灯りプロジェクト」として棚田のアゼでのコキア栽培も始めました。秋になると赤く紅葉し、それは優美な景観になるそうです。枯れたコキアは山の間伐材を柄にしてホウキにします。ワークショップとして毎年開催し、これも多くの人が集まる恒例行事となりました。

中山間直接支払の加算金で
ドローン防除の会社を運営

浅川初音


防除の様子

島根から
 奥出雲町阿井地区では、4集落による中山間直接支払制度「集落協定広域化加算」で、ドローン防除のチームを運営している。県の補助も活用してドローン2台を購入し、2020年には「合同会社あいの郷」として法人化もした。
 広域化加算とは15年に設けられた措置で、集落協定を広域で締結して農地維持の活動をする場合に加算が受けられる。阿井の4集落の協定では加算金全額の200万円を「活動支援」としてあいの郷に充当し、それをもとに法人を運営している。
 今年は延べ120haを防除したそうだ。受託料は農薬代込みで10a2500円と安い。「目先の儲けよりも、集落の農地を継続して守っていける態勢づくりのほうが大事」と代表の立石覚さん(68歳)。
 オペレーターは20〜70代の16人。おもに兼業農家で、女性や地域おこし協力隊もいる。オペレーターになるには、5日間ほどの講習を受けて免許を取得する必要がある。操作は、1台につき4人1班となり、2人が操縦し、もう2人が農薬補充やバッテリー充電などをする。昨年新たに導入した機体と合わせて3台態勢となった。オペレーターには作業時間に応じて時給を払う。
「ドローンの操縦をやってみたい若者が多いと聞く。あいの郷が、ドローンから農業に関心を持つ人の入り口になるといい」と立石さんは話していた。

ヤマアカガエル、ゲンジボタル
生きものを守る農家の工夫

宮地美里


ブロックを置くことで、
3面コンクリート張りでも
カワニナが棲みつく

長野から
 飯島町の齋藤久夫さん(75歳)は、長野県農業再生協議会の農業経営コンサルタントとしても活躍する水稲農家です。経営面積は約10?haで、「自然と生きる。虫でもなんでも地球での同居人だから」と、水田の一部で生きものと共存できる環境づくりを実践しています。
 齋藤さんが代かきをするのは、周囲より1カ月も早い3月末〜4月初め。山際の田んぼから着手するそうです。
「ヤマアカガエルはその名の通り普段は山林にいるんだけど、産卵期には水辺を求めて田んぼにやってくる。その時に水があるようにしておかないとね」と齋藤さん。サギに食べられないよう田んぼに糸を5m間隔で張ったり、オタマジャクシを守るために中干しを遅らせたりしています。今年6月中旬、田んぼに足を踏み入れると、ヤマアカガエルやトノサマガエルが大量にいて、しばしカエルの話で盛り上がりました。
 また、齋藤さんはゲンジボタルの復活にも取り組んでいます。一部を素掘りの水路に戻したりもしましたが、一番簡単で効果があったのは排水路にコンクリートブロックを20mおきに置くこと。「用水路は水量が多いし流れが速いからダメ。排水路は穏やか。そこにブロックでよどみをつくったら、泥が溜まってカワニナが棲みつくようになった」。ゲンジボタルも姿を現わすようになりました。

小さい農地の遊休化を防ぐ
市独自の空き農地バンク

市村将大


空き農地情報の例

島根から
 空き農地バンクとは、空き農地の情報を農業委員会が集約し、貸し借りの促進をする取り組みです。「空き家バンク」の農地版のイメージで、雲南市農業委員会では2021年から始めました。
 雲南市には移住者が多く、家庭菜園やそれより少し広い畑を持ちたいという相談がしばしばあります。今まではそのつど地域の農業委員に相談していましたが、空き農地の情報をまとめてストックして公開したいと考えたのが取り組みのきっかけです。
 空き農地の情報は市のホームページに掲載されています。農地中間管理機構では扱わないような10a以下の小さい農地が中心で、面積の他に所在地、地目、進入路の有無、休耕中かどうか、農地の写真が見られるようになっています。
 住民から農地を貸したいと希望があると、まず委員会事務局が現場に行って状況を確認します。登録するかどうかを判断し、登録する場合は情報をホームページに上げて、総会などで農業委員らに共有します。農地の条件が悪く放棄地化している時は、空き農地バンクへの登録ではなく、非農地化を勧めることもあります。
「条件のいい小さな農地の荒廃を防ぐのが目的」と言うのは農業委員会事務局の白築香さん。今までに5筆の農地の貸し借りや売買が成立しました。現在は28件の情報を掲載しています。

「おすそわけ野菜」が
おいしい定食に変身

菊池七和子


届いた野菜で内容が変わる
「おすそわけ野菜定食」(800円)

大分から
 日田市の津江地域には、栽培しても食べ切れず余ってしまう野菜を集めて市内のレストランに出荷する「おすそわけ野菜」という取り組みがあります。出荷者は70代以上のお母さんたちを中心に約30人。決められたコンテナに入れて、週1回1箱分。多少のキズがあってもかまいません。
 コンテナに詰めた野菜は、各集落の担当の住民が交代で集荷します。これが、高齢者の見守りを兼ねているとのこと。集落ごとの担当が1カ所に集めたコンテナは、「おすそわけ野菜のレストラン松原」に運ばれます。
 レストランを運営するのは河津奈津子さん(50歳)。「地元の食材だけで飲食店をやりたい」という思いから、10年前に野菜の集荷を始めました。なんと、お店で使う野菜の9割はおすそわけ野菜で、使い切れないものは店頭販売や野菜セットとして宅配することもあります。
 野菜の販売代金は、1カ月に1度、集荷の際に現金で支払われます。高齢のお母さんたちにとって、せっかく育てた野菜を捨てなくて済むうえ、レストランでおいしく食べてもらえる、お小遣い稼ぎにもなっていいことずくめです。
「野菜を出荷することでやりがいを感じてもらえれば嬉しい。自分たちの努力で地域を維持していきたい」と河津さんは話していました。

集落機能強化加算を
郷土芸能に、高齢者支援に

渡辺世奈


金ヶ沢鶏舞の様子

青森から
 新郷村で中山間直接支払集落協定の代表を務める荻沢範雄さん(74歳)は、集落機能強化加算をうまく活用しています。
 2020年に営農以外にも使える新しい加算ができることを知った荻沢さんは、農水省がつくったパンフレットを持って各常会(自治会)に説明してまわりました。「加算に取り組むなら、一つになってやろう」という声が出たため、村内の四つの集落協定を一つにまとめ、広域の扇ノ沢集落協定として取り組むことになりました。
「この加算ができたからこそやれたことがたくさんある」と荻沢さんは言います。例えば、参加者が少なくなっていた管内の金ヶ沢地区の郷土芸能「金ヶ沢鶏舞」への補助です。練習場所の神社の境内への道が悪かったためアスファルト舗装にしました。練習の際の簡単な飲食代などにも、地区の各常会に年5万円補助しています。
 また高齢者の除雪を請け負うため、手押し式の除雪機を購入しました。除雪の希望が多いので、トラクタにつけるタイプのものも購入予定です。その他、各常会ができなくなった県道や村道、側溝掃除の代行の代金や、加算を機に始まった老人クラブによる花の植栽の苗代助成にも使っています。
「これからは高齢者の見守りや買い物支援にも使っていきたい」とのこと。助成金をうまく使って地域に活気をもたらす荻沢さんを応援したくなりました。

浄水場の汚泥からつくる
土壌・水質改善資材

髙橋真央


2段天日乾燥法で乾燥中の汚泥

広島から
 浄水場で水を濾過する過程で出る汚泥は、乾燥され廃棄物として処分されることが多い。だが、3500世帯分の水道水を供給する三次市の向江田浄水場では、汚泥を自然乾燥させて様々な用途に再利用している。
 このきっかけは、もともと県庁で水道関連の仕事をしていた徳本和義さん(80歳)の技術開発だった。徳本さんは、自然乾燥中の汚泥に特別な筒を挿し、さらに乾燥を2回行なうことで、乾燥スピードを1・5倍ほど早められる2段天日乾燥法を考案。機械や燃料も必要なく、しっかり乾燥できるため重量が減り、処理費用も大きくコストダウンできる。
 乾燥汚泥の利用は、環境に配慮した商品を取り扱う広島市の生原商店と協力し2年前から始まった。
 乾燥して軽石のようになった汚泥には多様な微生物やミネラルが凝縮されており、土壌・水質改善に効果がある。生原商店では、浄水場から購入したものを「瀬織」と名付け、圃場や水槽、池などで使える砂や石として販売するほか、県産のヨシやモミガラと組み合わせたコンポスト基材なども販売している。この秋からは瀬織を使って育てた米などの取り扱いも始まるそうだ。
 生原商店の生原誠之さん(43歳)は「廃棄物を資材として有効活用できる。今の時代に合った技術だ」と語っていた。

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