このコーナーは、「ゆるがぬ暮らし」「ゆるがぬ地域」づくりに取り組む、全国各地の耳寄りな情報です。

自治会の給食サービスで
幼稚園が復活

杉野沙歩


おでかけ給食で郷土食の宮古そばを食べる

沖縄から
 宮古島市立狩俣幼稚園は園児が減り、2019年に休園しました。幼稚園には給食がなく、仕事のある保護者にはお弁当づくりがネックになっていたことが園児が減った原因です。世帯数200ほどの狩俣地区に他に保育所などはなく、島の中心部まで子どもを通わせないといけませんでした。
 21年度、その狩俣幼稚園が再開しました。自治会が給食のお弁当の配食サービスを始めたからです。公民館の厨房でボランティアがつくったものを、幼稚園まで届けてくれる仕組みです。1食300円で、当日の朝までに連絡すれば大丈夫。保護者の要望を受けて始まったものです。おかげで現在は、7人の園児が園に通っています。
 22年度からは自治会主催の「おでかけ給食」も始まりました。月に1回、地区の飲食店などでお昼を食べるのです。食堂に行ったり、漁師の方が釣った魚を自分たちで調理して食べたこともあります。保護者の負担が減るうえ、地産地消、食育にもなります。園児からは、「何でもっとやらないの」と要望がくるとか。寄付や、空きビン回収の収入を資金にあてています。
 自治会長の國仲義隆さん(51歳)は「保護者は皆顔見知りで、園児は自分の子どものような感覚。人が少ないからこそできる」と言います。

特産の黒大豆がおしゃれに変身!
七色の「黒豆硝子」

文箭 誠


黒豆硝子の花瓶

兵庫から
「丹波黒」の産地として名高い丹波篠山市にあるガラス工房るんにお邪魔してきました。神戸出身の宮崎英彦さん、愛知出身の恵巳さん夫妻が営んでいます。ガラス工芸の勉強をしたのち篠山に移住し、せっかくだから特産の黒大豆を使って何かできないかと考えたところ、ガラスの発色剤として使うアイデアが生まれました。
 近所の農家から割れ大豆をもらうこともありますが、基本的に自分たちで栽培しています。地域の人に黒豆づくりを教わったり、工房が忙しい時には農作業を代わりにやってもらったりすることもあります。
 12月にとれた黒豆を枝ごと乾燥させ、一斗缶で一日かけてじっくり燃やして灰にします。これを溶かしたガラスの原料と混ぜ合わせると、その年の黒豆の出来によって浅葱や翡翠、黄金、琥珀などの色に変わります。一番多いのは黄金色ですが、何色になるかは完成しないとわかりません。ガラスの色は鉄分が多くなると緑や青に近くなるため、色の変化には豆や土の鉄分が関係してるんじゃないかと恵巳さんは考えています
「黒豆硝子」を使って、グラスや、酒器、花瓶などをつくっています。毎年エダマメの時期には、お客さんのために収穫体験も開催します。篠山の黒エダマメは一度食べたら忘れられないほど濃厚で甘いのが特徴。これをきっかけにファンになる人もいるそうです。

産廃の最終処分場で開いた
はじめての「水源まつり」

原田順子


水源まつりでのコンサート

広島から
 2022年12月、三原市本郷町南方において「第1回日名内水源まつり」が開催されました。日名内地区は三原市と竹原市の水道の水源、沼田川と賀茂川の分水嶺に位置します。水源の水で育ったお米や野菜、おもち、正月飾りのほか、その水を使った抹茶、お汁粉、コーヒーなども販売されました。薪火を囲んでのコンサートや絵本の読み語りもあり、たくさんの方でにぎわいました。
 祭りのきっかけは、地区に産廃の最終処分場がつくられたこと。15年に建設計画が明るみに出てから、4万筆以上の署名を集めるなど反対運動を続けてきましたが、22年9月に産廃の搬入が始まってしまいました。
「この場所は産業廃棄物の処理場ではなく、いのちの源の水源。実際に日名内に集い、見て、感じて、考えてもらいたい」と、日名内水源まつり実行委員会の岡田和樹さん(36歳)は言います。
 産廃事業者や行政に対しての訴訟も20年から続いています。日名内の農家の飯田純子さん(74歳)は原告の一人。農業と生活に使う水を、すべて井戸水でまかないます。そのような地域の井戸水に処分場から漏れ出た物質が入るかどうかが、裁判の争点の一つです。
「いい水でつくるから、お米も野菜もおいしいと言ってもらえる。息子も農業を継ぐと言ってくれている。もし水が汚れてしまったら……」と声を詰まらせました。

直売所の「インボイス閉店」を機に、
宅配と集荷を始めた

佐藤優紀


配達する山崎さん

島根から
 出雲市にある「桃源直売所」。2006年に出雲店、10年に(出雲)ドーム店がオープンしました。現社長の山崎貴之さん(43歳)は9年前に脱サラして頑張ってきましたが、22年7月に出雲店を閉店しました。
 機械の更新費用や人手不足もありますが、一番の理由はインボイス。今は年間250万円の消費税を納付していますが、インボイス開始後は、買い切りで仕入れる野菜の消費税分が控除されなくなるなどの理由で900万円にも増えるそうです。そこで、売り上げが5000万円以下で選択できる簡易課税を利用して税額を今までと同様に抑えられるよう、1店舗つぶす覚悟を決めました。
 一方、新しい取り組みとして、8月から保育所を中心に給食用の野菜や果物の宅配を始めています。もともと店まで買いに来てもらっていたのを、10%の手数料をもらって宅配します。売り先は現在9件で、重い荷物を運ぶ必要がなくなったことが喜ばれ、販売額も宅配前の1・5倍に増えました。
 この宅配先は、閉店した出雲店の近くが多いので、出雲店に出荷していた高齢農家20軒の集荷も始めました。その分の手数料は3%上乗せしています。
「売り上げを上げたいのに店を閉めないといけない葛藤があった。インボイスは複雑。本当に制度としてちゃんと進んでいくんだろうか」と山崎さんは言います。

集落営農の農地管理
窓地図が便利

宮地美里


窓地図。ペンを消す時はスプレークリーナーを使う

滋賀から
 甲賀市で水稲、大豆、小麦を22haつくっている農事組合法人サンファームそまなかの代表、木村茂和さん(68歳)にお会いしてきました。法人が預かる180筆以上もの圃場状況を管理するのは大変です。パソコン上で処理できるソフトもあるようですが、サンファームそまなかでは事務所の窓を使っていました。
 まず、すべての圃場が入る地図をA4の8倍くらいに拡大コピー。それを倉庫内にある事務所の透明なガラス窓に、ガラス越しに地図が見えるよう外側から貼り付けます。この地図に、ガラスの上から作付け品目と作業状況を書き込むのです。
 消しやすい水性ペンを使うのがポイント。圃場の輪郭を品目・品種ごとに色を変えたペンでなぞり、内側は斜線を書き加えたりして、アゼ塗りや耕起といった作業状況を書き変えていきます。法人化前の営農組合時代から、もう20年以上続けています。
 法人の機械作業オペレーター8人は皆兼業農家なので、土日を中心に作業シフトを組みます。それで作業が間に合わないときは、役員が平日に作業することもあります。毎日別の人が作業するので、「今日どこで何をするのか」が老人にも若者にもわかるのが大事だそうです。
 誰でも簡単にできて、圃場の作業状況が一瞬でわかる画期的なアイデアですね。

親子で参加する島留学

杉野沙歩

野菜のおすそ分けにピース

鹿児島から
 沖永良部島の知名町では、2021年度から小学生とその親を対象に「えらぶゆりの島留学」を始めました。留学する児童は、上城小学校に1年間転校。住まいはほかの留学児童の家族と一緒のシェアハウスです。町は1世帯に月3万円を補助します。
 きっかけをつくったのは、元地域おこし協力隊の釜優貴美さん(43歳)です。20年に上城小学校の児童数が町内最少の13人となり、釜さんは、これ以上少なくなると地域の拠点でもある小学校を統廃合せざるを得なくなると心配したそうです。一方で、空き家になっている家の家主から「ここを地域のために活用したい」と聞いたこともあり、島外から児童を呼んで、島ならではの学びを探求してもらおうと考えました。
 初年度は2世帯・児童3人、2年目は3世帯・児童3人、この春からは3世帯・児童5人が学びます。東京や大阪、愛知、鹿児島などから来ています。ウミガメの産卵を入り口に、島の生きものに興味を持つ児童が多いそうです。
 親のほうは、リモートで働いたり、農作業を手伝ったり、三線や芭蕉布織りを習う人もいます。「島の人やほかの家族との交流があって、親子二人きりより心強い」「島の暮らしやいろんな人の生き方を知ったことは、子供たちにとって将来の財産になると思う」という声も聞きました。

『季刊地域』の
ウェブ読書会を初開催

向井道彦

水野さんが出荷したいと考えているヤマツツジ

岡山から
 2023年2月に「第1回 みんなで読もう! 季刊地域」を実施した。ウェブ会議システム上で読者同士、当月号(今回は52号)を材料に情報交換しましょうという場だ。中国四国管内を中心に、4人の読者が参加してくれた。終わってから52号を読み返すと、さらにおもしろく感じられた。
 参加者の一人、福島県いわき市に住む水野奈緒さん(29歳)は、100haの山を管理する自伐林家の妻。林業ではどうしても女性は体力的にハンディがあるが、それでもできる稼ぎ方として山採り花木の記事を興味深く読んだそうだ。読書会翌日、「さっそく花木組合に電話したらうまくいきそうな感じでした。電話してみるもんですね」とメールをくれた。
 例えばドウダンツツジなら、1m50㎝のものを10本ずつ4カ所束ねて出すことや、市場によって売り先の華道の流派が違い、それに応じた花や葉を出さないといけないこと、じつは個人で山採り花木を市場に出す人はけっこう多いことなどを教わったらしい。出荷規格を学ぶため、その後3月に市場の見学にも行ったそうだ。
 私たち農文協は農村の情報ハブ(集約点)であることが価値で、そうあり続けるチャレンジを試行錯誤しながら続けていきたい。
 第2回は4月17日(月)17時から行なう。中国四国はもちろん、全国からの参加もお待ちしています。

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